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📅 2026.09.08(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
💪 挑戦

IRONMAN再挑戦の作戦ノート|視覚障害B2の僕が、6月・7月・9月と一段ずつ積み上げた話

⏱ 約6分で読めます(3,365字)

226キロという頂上に、いきなり飛びつかない。手前に段を置いて、一段ずつ上がる。これが、今年の僕の作戦でした。

もしあなたが、大きな目標を前にして、何から手をつければいいか分からなくなっているなら。

もしあなたが、本番までの時間を、どう使えばいいのか迷っているなら。

もしあなたが、「気合いが足りないから進めないんだ」と自分を責めているなら。

この記事は、あなたのためのものです。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。

2026年9月13日、IRONMAN JAPANを完走しました。タイムは14時間43分54秒。PCクラスで2位でした。

この記事は、その本番の前に書いた「作戦ノート」です。レースが終わったいま、少し手を入れて、もう一度開いてお見せします。

📖 この記事の目次
  1. 同じ226キロでも、毎回が初めて
  2. 作戦は、平川さんと二人で立てる
  3. 6月のミドルは、中間テスト
  4. 7月の合宿で、合図をそろえる
  5. 大きな目標は、階段に分ける
  6. 9月13日、本番の答え合わせ
  7. サブ11は、まだ先にある
  8. あなたにも、作戦ノートを

同じ226キロでも、毎回が初めて

IRONMANは、長いレースです。スイム3.8キロ。バイク180キロ。ラン42.2キロ。合わせて226キロ。

視覚障害B2の僕は、これをガイドと二人でつなぎます。

走ったことのある距離です。でも、「前にできたから、今年も大丈夫」とは思いませんでした。

体の調子も、コースの条件も、年によって違います。去年と同じ準備が、今年も通じるとはかぎりません。

だから、作戦は毎年、いちから立て直します。

去年のレースを、セーブした場所から続きで始めることはできません。

つまり、何度走っていても、準備は毎年ゼロからやり直す、ということです。

……めんどくさい。正直、そう思います。でも、やるしかありません。

今年の体で、今年の仲間と、もう一度ていねいに積み上げることが、僕にとっての「再挑戦」という言葉の中身でした。


作戦は、平川さんと二人で立てる

今年、僕と組んでくれたガイドは、平川さんです。仲間の紹介で出会いました。

僕のレースは、ガイドがいて、はじめて成り立ちます。

ガイドは、僕のもうひとつの目です。コースの様子。路面の変化。補給のタイミング。見えない僕の代わりに、平川さんが言葉にして渡してくれます。

「右」と言われたら、右へ。「止まる」と言われたら、止まる。その一言を、疑わずに体で受け取ります。

だから、作戦も僕だけでは立てません。どこで何に気をつけるか。補給はどう合図するか。二人で決めます。

ふだんの練習は、基本的に自分でやっています。ガイドとつながるのは、本番の日です。

だからこそ、本番の前に二人で決めておいた作戦があると、ロープ一本を信じて進むときに迷いがなくなるのだと、僕は思っています。


6月のミドルは、中間テスト

9月の本番に、いきなりは挑みません。その前に、段を置きました。

最初の一段が、6月のミドルディスタンスのレースです。

ミドルは、IRONMANより短い距離のトライアスロンです。僕にとっては、本番の前の「中間テスト」でした。

確かめることは、決まっています。

頭の中の「たぶん大丈夫」と、体を動かして確かめた「大丈夫だった」のあいだには、大きな差があります。

ミドルは、その差をうめる場所です。

そして、うまくいかなかったことのほうが、僕には大事でした。

「ここで補給が遅れた」「この合図は、伝わりにくかった」。そういう小さなつまずきは、9月までの宿題として持ち帰れます。

本番で起きてからでは直せない失敗を、まだ直す時間が残っているうちに見つけられたのなら、それは失敗というより、むしろ運がよかった出来事なのだと思います。


7月の合宿で、合図をそろえる

次の一段が、7月の合宿です。

合宿は、まとまった時間をかけて、本番に近い形で体を動かす場所です。長い距離を実際に動いて、体に本番の感じを覚えさせます。

そして、もうひとつ。ガイドやチームと、合図をそろえる時間でもあります。

ロープを引く合図。止まる合図。補給を渡すタイミング。声のかけ方。

本番の最中に「これ、どうする?」と相談している余裕はありません。……あったら、たぶんもっと速いです。

だから、先に決めておきます。「ここは、もう少しこうしよう」「この合図は、もっと短くしよう」。気づいたら、その場で直します。

合宿には、技術のほかにも意味がありました。

一緒に動いて、一緒にご飯を食べて、一緒に疲れる。

その時間が、あとで効いてきます。

本番で初めてやることを、ひとつでも減らしておくこと。ミドルも合宿も、そのために置いた段でした。

苦しい場面で「この人となら、最後まで行ける」と思えるかどうかは、合図の正しさだけではなく、それまでに一緒に過ごした時間の長さで決まるのかもしれません。


大きな目標は、階段に分ける

ならべてみると、今年の作戦は階段になっています。

6月のミドルで、流れを確かめる。7月の合宿で、合図をそろえる。9月に、本番。

一足飛びにしない。順番に積む。これが、作戦ノートの背骨です。

見えない僕にとって、いきなり大きなものに飛びこむのは、とても不安です。

9月の226キロは、僕にとってのラスボスでした。

つまり、いきなり向かっていっても、足がすくんで動けなくなる相手、ということです。

でも、あいだに小さな段を置くと、不安は「次にやること」に変わります。

この登り方は、今年はじめたものではありません。

31歳で視覚障害者になって、先がまっ暗に思えたときも、僕は目の前の一段から始めました。

25メートルも泳げなかった僕が、長い距離を泳げるようになったのも、少しずつ距離をのばしたからです。

大きすぎて足がすくむときは、段を細かくきざめばよくて、階段というのは、遠い目標を「今日やる1ミリ」にまで分けてくれる道具なのだと、僕は何度も教えられてきました。


9月13日、本番の答え合わせ

ここからは、レースのあとに書き足した部分です。

2026年9月13日。IRONMAN JAPAN。

14時間43分54秒で完走しました。PCクラス2位。前の年より、約25分短くなりました。

ガイドは、作戦を一緒に立てた平川さんです。

作戦どおりに進まなかった場面も、もちろんありました。そのくわしい話は、完走記に書いています。

それでも、ゴールまで行けました。

本番の日に僕たちを運んでくれたのは、その日の気合いではなく、その日までに二人でひとつずつ確かめて、直して、積んできた段取りのほうでした。


サブ11は、まだ先にある

今年の9月も、もっと先にある夢へつながる一段です。

その夢は、IRONMANを11時間を切るタイムで走ること。サブ11。ギネス記録への挑戦です。

今の僕からは、まだ遠い目標です。

14時間43分の人間が、11時間を切ると言っています。……自分でも、けっこう言うなあ、と思います。

でも、遠いから、あきらめる理由にはなりません。

遠い夢があるから、今日の練習にも、次の合宿にも、意味が生まれます。

一回のレースでは届かなくても、今年積んだ段を来年の自分に渡して、その次の年の自分にまた渡していけば、少しずつ近づいていけると、僕は信じています。


あなたにも、作戦ノートを

最後に、あなたへ。

大きな目標があるなら、いきなり目指さなくて大丈夫です。

手前に、踏み台を置いてみてください。本番の前に試す場所。誰かと合図をそろえる場所。

遠い目標の前で足がすくむのは、弱いからではありません。目標が大きすぎて、最初の一歩が見えなくなっているだけです。

それから、できれば、ひとりで抱えこまないでください。

僕が平川さんと作戦を立てたように、あなたにも、一緒に地図を描いてくれる人がいるはずです。

大きな目標は、頭の中に置いたままだと、ただの不安です。

でも、「いつ、何を、誰と」と紙に書き出したとたん、それは歩いていける地図に変わります。

気合いより、段取り。ピンチはチャンス、カギは工夫。

見えなくなっていく世界の中で、支えられながら挑み続ける。その旅を、仲間と一緒に。

あなたの階段の、今日の一段を、心から応援しています。


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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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25メートルも泳げなかった僕が、ガイドとロープでつながって226kmに挑むまでを、YouTubeで1話ずつ動画にしています。

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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人