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📅 2026.09.02(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
💪 挑戦

IRONMANの制限時間(関門)とどう向き合うか|視覚障害B2の僕が、時間を「設計図」に変えた話

⏱ 約5分で読めます(3,180字)

時間に追われると、頭がまっ白になる。そんなこと、ありませんか。

もしあなたが、締め切りが近づくと、かえって手が止まってしまうなら。

もしあなたが、「間に合わなかったらどうしよう」で、夜に目が冴えてしまうなら。

もしあなたが、「この歳までに」という見えない期限に、息苦しさを感じているなら。

この記事は、あなたのためのものです。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。

僕が出ているIRONMANというレースには、制限時間があります。

今日は、その時間と、僕がどう付き合っているかを書きます。

📖 この記事の目次
  1. IRONMANには「関門」がある
  2. 3つのタイムを、良い悪いで見ない
  3. タイムは敵じゃなく、設計図
  4. 見えないから、頭の中に地図を持つ
  5. 時間は、二人で読む
  6. サブ11という、遠い設計図
  7. あなたの締め切りも、設計図に変えられる

IRONMANには「関門」がある

IRONMANは、スイム3.8キロ、バイク180キロ、ラン42.2キロ。合わせて226キロのレースです。

ただ進めばいい、というレースではありません。関門があります。

スイムは何時まで。バイクは何時まで。ゴールは何時まで。

決められた時間までに、その地点を通れなければ、そこで終わりです。どんなにがんばっていても、です。

はじめてこの仕組みを知ったとき、僕は正直、こわいと思いました。

完走するだけでも大変なのに、時間にも追われる。見えないうえに、追われる。

関門は、僕にとってゲームオーバーの線でした。

つまり、そこに間に合わなければ、その日の挑戦がその場で終わってしまう線、ということです。

しかも、この相手には姿がありません。さわれない。声もかけられない。それなのに、確実に背中へ近づいてきます。

だから僕は、関門のことを「見えないライバル」と呼んでいます。

……見えにくい僕にとっては、二重に見えない相手です。ややこしい。

のんびり休めば間に合わず、飛ばしすぎれば最後まで体がもたないので、限られた時間の中で自分の体をどう配分するかが、このレースのいちばん難しいところで、いちばんおもしろいところでもあります。


3つのタイムを、良い悪いで見ない

僕のIRONMANのタイムを、ならべてみます。

PCクラスは、障害のある選手のクラスです。

数字だけ見れば、速い年も、遅い年もあります。

でも僕は、この3つを「良かった」「悪かった」では見ていません。

同じ226キロでも、年によって条件がちがいます。体の調子。天気。コース。

スイムはロープでつながり、バイクはタンデムという二人乗りの自転車で、ランはロープで横にならぶ。そうやって、ガイドと二人で、関門をひとつずつ越えていきました。

どこでペースを守るか。どこで力を使うか。その判断を、二人で重ねつづけた結果が、あの時間です。

タイムは、成績表というより、次のための情報です。

僕が大事にしているのは数字の大小ではなくて、その一日、時間に追われて崩れたのか、それとも時間を自分で組み立てて最後まで進めたのかという、数字の裏側にある向き合い方のほうです。


タイムは敵じゃなく、設計図

制限時間を「こわい敵」だと思うと、ずっと追われている気がします。心がすり減ります。

でも、見方を変えると、まったくちがうものになりました。

僕にとってタイムは、敵ではありません。設計図です。

関門の時間が決まっている。それは、「ここまでに、ここを通ればいい」という地図を、最初から渡されているということです。

追われているのではなく、進むペースを教えてもらっている。

そう考えると、制限時間は、急に頼もしい味方になります。

前の僕は、関門のことを考えるだけで、こわかった。「間に合わなかったらどうしよう」に、心を持っていかれていました。

設計図だと思えるようになってから、関門は「目印」になりました。

こわい壁が、道の途中のチェックポイントに変わった。

見ているものは同じ時間なのに、「追ってくるもの」と思うか「教えてくれるもの」と思うかだけで、こんなに感じ方が変わるのかと、自分でもおどろきました。


見えないから、頭の中に地図を持つ

僕は、レースの景色がよく見えません。自分の腕時計も、すぐには見られません。

見える選手は、目の前の景色や標識で、いまどこにいるかを確かめられます。僕には、それができません。

だから、レースが始まる前に、設計図を頭に入れておきます。

見える景色がないなら、頭の中に景色を持てばいい。前もって組み立てたものが、そのまま本番の「視界」になります。

これがあると、苦しい場面でも、心が折れにくくなります。

「この苦しさは、設計図のこのあたり。もう少し行けば、楽になる」。そう分かるからです。

先が見えない苦しさは、人を不安にするけれど、頭の中の地図があれば、苦しさにも「終わりの場所」があると分かるので、見えない景色の中でも、僕は自分の現在地を見失わずにいられます。


時間は、二人で読む

そして本番では、その設計図を、ガイドと二人で確かめながら進みます。

僕が時計を見られない代わりに、ガイドが時間の流れを教えてくれます。

2026年のレースでは、ランの35キロで、僕の時計の電池が切れました。

……スタートのときは、残り75パーセントあったんです。

ペースも、残りの距離も、分からなくなりました。そこからは、平川さんの声だけが頼りでした。

それでも、ゴールできました。

見えないなら、見える人と二人で読めばいい。

設計図は、自分だけで抱えなくていいのだということを、僕は時計が止まったあの道の上で、あらためて体で知りました。


サブ11という、遠い設計図

僕には、ずっと追いかけている設計図があります。

IRONMANを、11時間を切るタイムで走ること。サブ11。ギネス記録への挑戦です。

今の僕のタイムから見れば、まだ遠い。とても高い壁です。

14時間台の人間が、11時間を切ると言っています。……3時間以上あります。自分で書いていて、ちょっと笑ってしまいます。

でも、すぐ届くものなら、ここまで工夫を重ねる必要もありません。

遠いから、補給の段取りも、ガイドとの合図も、設計図の細かさも、ひとつずつ磨く理由になります。

サブ11は、誰かと競うための数字ではなくて、過去の自分より一歩だけ先へ行くための、自分との約束のような数字なので、僕は焦らずに、でも手放さずに、いつか必ずと思って持ちつづけています。


あなたの締め切りも、設計図に変えられる

あなたの毎日にも、見えないライバルがいるかもしれません。

仕事の締め切り。提出の期限。「この歳までに」と感じている時間。

そんなときは、思い出してください。タイムは敵じゃなく、設計図。

締め切りは、あなたを追いつめるためにあるのではありません。「ここまでに、何をすればいいか」を教えてくれる案内でもあります。

ゴールの日から逆算して、今日やる1ミリを決める。それだけで、同じ時間が、少しやさしくなります。

もうひとつ。設計図どおりにいかない日は、かならずあります。

予定より遅れる。思わぬことが起きる。体が言うことをきかない。

それでも、自分を責めなくて大丈夫です。

設計図は、あなたをしばる鎖ではなくて、迷ったときに戻ってこられる地図なので、ずれたらその場で引き直せばよく、計画どおりにいくことよりも、いつでも引き直せることのほうが、ずっと大事だと僕は思っています。

そして、ひとりで抱えなくていい。僕がガイドと時間を読むように、あなたも、誰かと一緒に読んでいい。

見えなくなっていく世界の中で、支えられながら挑み続ける。その旅を、仲間と一緒に。

今日のあなたの1ミリを、心から応援しています。


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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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25メートルも泳げなかった僕が、ガイドとロープでつながって226kmに挑むまでを、YouTubeで1話ずつ動画にしています。

▶ IRONMANシリーズを第1話から見る(YouTube)

RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人