人に「ここは直したほうがいいよ」と伝える。
これ、むずかしくないですか。
言い方をまちがえると、空気がこおります。だまっていると、何も変わりません。
大人になっても、なかなかうまくできません。
ところが先日、それをさらっとやってのける人たちに会いました。
小学校の、4年生です。
もしあなたが、子どもたちに何かを伝える仕事をしているなら。
もしあなたが、相手を否定せずに直してほしいところを伝える方法を、探しているなら。
この記事は、あなたに向けて書いています。
僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。
講演を始めて、9年になります。ここ3〜4年は、年に50回前後、学校などでお話をしています。
今日は、2026年6月5日に行った、小学校での講演のレポートです。
2026年6月5日。ある小学校に、講演に行きました。
聞いてくれるのは、4年生のみなさんです。
これが、2026年度の2回目の講演でした。
今年度は、ゆっくりめのスタートでした。6月に入って、やっと動き出した感じがあります。
僕にとって、初めての場所での講演は、移動もふくめて1日がかりの仕事です。
どの電車に乗るか。どこで乗りかえるか。会場までどう行くか。話す前に、まずそこからです。
この日も、シュクレと一緒に、最寄りの駅から会場へ向かいました。
スタッフさんが迎えてくれて、ぶじに会場に入りました。話しはじめる前に、まずここまでたどり着くことが、見えにくい僕にとっては、その日の最初の大事な仕事です。
話しはじめて、すぐに分かりました。
今日は、空気が違う。
僕が話すと、4年生のみなさんは、じっと耳をかたむけてくれます。
笑うところでは、思いきり笑ってくれます。
シュクレが登場すると、会場全体が、ふわっとあたたかくなりました。
僕には、子どもたちの顔が、はっきりとは見えません。
僕は、世界を音で感じています。
だから、会場の様子も、音で分かります。静かさの深さ。笑い声の大きさ。
講演を9年続けてきて、空気が違う日があることを、僕は知っています。
最初の10秒で伝わってきた集中の深さから、今日はまちがいなくその「違う日」だと、見えにくい僕にも、はっきり分かりました。
講演の後半に、4年生のみなさんが発表する時間がありました。
そこで、僕は驚きました。
ある子が、別の子の発表を聞いたあと、こう言ったのです。
「○○さんの〜のところ、とても良かったと思います」
まず、ほめる。
「でも、ここを△△にしたら、もっと良くなると思います」
それから、直すところを伝える。
これを、4年生が、ごく自然にやっていました。
誰かに言わされている感じは、ありません。
否定だけでもない。ほめるだけでもない。
相手の良いところをちゃんと認めてから、もっと良くなる方向を一緒に考えるというやり方を、目の前の4年生が、当たり前のように使っていました。
これは、大人でもむずかしいことです。
直してほしいことを伝えるのは、多くの大人にとってラスボスです。
つまり、いちばんむずかしくて、できれば避けて通りたいこと、ということです。
会議で。部下に。自分の子どもに。
これができている大人は、どれくらいいるでしょうか。
……書きながら、自分の胸にも手を当てています。
ほめるのを忘れて、直すところだけ言ってしまう。
逆に、言いにくくて、ほめるだけで終わってしまう。
どちらも、よくあることです。
4年生の声を聞きながら、顔がはっきり見えなくても、声の調子、言葉のえらび方、間の取り方だけで、その子の賢さはちゃんと伝わってくるのだと、僕は自分の耳でたしかめていました。
この日の4年生は、本当に賢かったです。
どれも、目ではなく、耳で受け取ったものです。
賢さは、年齢じゃない。
「4年生だから、このくらいだろう」と、どこかで決めつけていた自分に気づいて、その当たり前を疑うことが、この日の僕にとっての1ミリの行動になりました。
会場で、僕は「教える側」のはずでした。
見えにくい中でIRONMANに挑む話を、4年生に届ける。それが、この日の役目です。
でも、発表を聞いているうちに、僕は「教わる側」になっていました。
講演を9年続けても、僕はまだレベル1でした。
つまり、伝える側のつもりでいても、教わることがまだたくさんある、ということです。
「まずほめて、それから直すところを伝える」
この言葉づかいは、僕も次の講演から使おう、と思いました。
9年間、僕は自分を「伝える側」だと思ってきたけれど、本当は毎回どこかで何かを教わっていて、この日は、それが特にはっきり見えた一日でした。
正直に書きます。
この日、僕は写真を撮り忘れました。
1枚も、ありません。
今日の講演は、セーブし忘れです。
つまり、形に残る記録が、何もない、ということです。
スタッフさんとの打ち合わせ。4年生との時間。シュクレの世話。
目の前のことに集中していて、気がついたら、帰り道でした。
でも、写真がなくても、残ったものがあります。
講演は、僕にとって、お金をいただく仕事です。
でも、教える側として出かけていって、帰りには教わる側になっているという時間を、月に何度ももらえることのほうが、僕にとってはずっと大きな宝物です。
もしあなたが、「子どもには、子どもの話し方しか分からない」と思っているなら。
それは、違うかもしれません。
4年生でも、「相手をほめて、直すところを伝える」ことができます。
そして、僕たち大人も、4年生から学べます。
学ぼうとする気持ちがあれば、誰からでも、何歳からでも、学べます。
明日、誰かに何かを伝えるとき、まず良かったところをひとつ言ってから、「ここをこうしたら、もっと良くなる」と続けてみる。それだけで、相手に届く言葉は、きっと変わります。
4年生のみなさん、ありがとうございました。
僕のほうが、たくさん教わりました。
「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「障害理解」をテーマに、講演を続けています。小学校・中学校・高校・大学・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。
📧 つなひろワールドへお問い合わせ中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人