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📅 2026.09.01(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
🎤 講演

講演の最初に「拍手で教えて」とお願いする理由|学校では「中ちゃんクイズ」になります

⏱ 約7分で読めます(4,442字)

もしあなたが、人前で話すとき、聞く人の反応が読めずに不安になるなら。

もしあなたが、自分の弱みやハンデを、どう周りに伝えればいいか悩んでいるなら。

もしあなたが、学校で障害理解の時間を受け持っていて、子どもたちが受け身にならない進め方を探しているなら。

この記事は、あなたのためのものです。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。

2017年から講演を続けていて、ここ3〜4年は年50回前後、学校や企業でお話ししています。

その講演は、いつもこのひとことから始まります。

「実は僕、目に障害があって、皆さんの表情が見えないんです。だから、うなずいたり、拍手をしたり、声を出したりして、反応を教えてもらえますか」

📖 この記事の目次
  1. 表情が見えないまま、話すということ
  2. 「反応を教えて」で、客席の役割が変わる
  3. 弱みを開くと、人は応援してくれる
  4. 学校では、これがクイズになる
  5. 第1問は本、第2問はテレビ
  6. 第3問は、料理
  7. 3問の向こうに、置いていきたいもの
  8. あなたの「見えないハンデ」も、工夫に変えられる

表情が見えないまま、話すということ

講演で前に立っても、僕には客席の表情が見えません。

話す人にとって、聞く人の表情は大事な手がかりです。うなずいているか。退屈そうじゃないか。いまの話は伝わったか。

その手がかりがないまま話すのは、暗闇の中でボールを投げ続けるようなものです。どこに届いているのか、分からない。

反応がまったく分からないまま話していると、僕のHPは、じわじわ減っていきます。

つまり、話しながら、心細さで気持ちがすり減っていく、ということです。

これは、見えない僕にとって、講演の大きなピンチでした。

でも、表情が見えないという事実は、変えられません。だったら、それを前提にして、できる方法を組み立てればいい。

見えない目の代わりに、僕にはよく聞こえる耳があるのだから、耳をたよりに講演すればいいと考えたところから、いまの僕の話し方は生まれました。


「反応を教えて」で、客席の役割が変わる

表情が見えない代わりに、音と声で反応をもらう。

うなずきは見えなくても、拍手は聞こえます。笑い声も、相づちも、ちゃんと耳に届きます。見えない目の代わりに、耳で会場を「見る」のです。

このお願いをすると、客席の空気が、ふっと動くのが分かります。「この人には、反応を返せばいいんだ」と、聞く人の側にも役目ができる。

聞くだけの人から、一緒に場を作る人へ。たったひとことで、客席の役割が変わります。

最初に「目に障害があるんです」と正直に伝えると、かしこまっていた空気もゆるみます。そこから僕の話は、「立派な講演」ではなく、中澤隆という人間が自分のことを語る時間になります。

そして、最初の拍手が返ってきた瞬間、僕のHPは一気に回復します。

つまり、その音だけで、話す元気がわいてくる、ということです。

「今の話、伝わったんだな」「ここで笑ってくれたんだな」。耳から届く反応をたよりに、話のテンポや熱さを変えていけます。僕が言葉を投げて、みなさんが拍手や声で投げ返してくれる。講演が、会場とのキャッチボールになるのです。

バラバラに座っていた人たちが、同じタイミングで手をたたき、同じところで笑う、その音が重なっていく瞬間に、僕は毎回、会場がぐっとひとつにまとまるのを感じます。


弱みを開くと、人は応援してくれる

「最初に障害のことを話すなんて、勇気がいりませんか」と聞かれることがあります。

正直、もう勇気とは思っていません。必要なお願いを、まっすぐ伝えているだけです。

むしろ、隠すほうがしんどい。反応が分からないのに、見えているふりで話し続けるのは、無理があります。

見えているふりをするのは、「にげる」を選び続けるようなものです。

つまり、困っていることから目をそらしたまま話す、ということです。

それなら、最初に正直に伝えて、助けてもらったほうがいい。これは、レースでガイドに支えてもらうのと、まったく同じ考え方です。

視覚障害者になりたての頃、僕は人に頼るのが、本当に苦手でした。助けてもらうのは、弱い証拠だと思っていました。

でも、レースでガイドと一緒に走るうちに、助けを求めることは弱さではなく、相手を信じてつながろうとする力なのだと、少しずつ考えが変わっていきました。

不思議なことに、正直にお願いすると、会場は温かくなります。「この人を応援しよう」という空気が、自然と生まれる。開くから、つながれるのです。


学校では、これがクイズになる

学校に呼んでいただいたとき、このお願いは、ひとつのコーナーになります。「中ちゃんクイズ」です。

まず最初に、こうお願いします。「今日は、僕のことを"中ちゃん"って呼んでくださいね」

中澤の「中」に「ちゃん」をつけて、中ちゃん。それだけで、体育館の空気が、ふっとやわらかくなります。

そして、こう切り出します。「中ちゃんは目がよく見えません。さて、そんな中ちゃんは、ふだん、どんな生活をしているでしょうか。3つ、クイズを出します。〇か×かで考えてくださいね」

説明ではなく、クイズにするのには理由があります。説明だと、聞く側はどうしても「ふうん」で流れてしまう。クイズなら、答えを聞く前に自分の頭で考えます。予想してから答えを聞くので、「当たった」「外れた」の驚きと一緒に残るのです。

答えは、手ではなく、拍手で教えてもらいます。

「中ちゃんは目が見えないので、みんなが手を挙げても見えないんです。だから、〇だと思う人は〇のときに、×だと思う人は×のときに、大きな拍手をしてください」

「〇だと思う人——」で、わあっと拍手。「×だと思う人——」で、別の場所から、わあっと拍手。その大きさで、僕は答えを耳で受け取ります。

手を挙げるのは勇気がいるけれど、拍手ならみんなで一斉にできるので、恥ずかしがり屋の子も参加できて、見えないハンデがそのまま参加のしくみになるのです。


第1問は本、第2問はテレビ

第1問。「中ちゃんは、本を読むでしょうか。読まないでしょうか」

「目が見えないんだから、読めないでしょう」。そう考えて、「読まない」に大きな拍手が集まることがよくあります。

答えは、〇。中ちゃんは、本を読みます。

「えーっ」と会場がどよめきます。白い紙の黒い文字は、ほとんど見えません。でも、道具を使えば読めます。拡大読書機で文字を大きくして、白黒をひっくり返して読む。音声図書機に、本を声に出して読んでもらう。

「中ちゃんは、目だけじゃなくて、耳でも本を読むんですよ」と言うと、子どもたちは心の底から驚いた顔をします。

第2問。「中ちゃんは、テレビを見るでしょうか。見ないでしょうか」

ここは、拍手が割れることが多いです。答えは、〇。中ちゃんは、テレビを見ます。

続けて聞きます。「中ちゃんの家のテレビは55インチ。さて、どれくらいの近さで見ているでしょう」

「1メートルくらい」「もっと近い」。正解は、20センチくらいです。「近すぎる!」と、会場がわっとなります。

そして、こんな話も添えます。「中ちゃんの家では、毎週木曜日が、家族で映画を見る日なんですよ」

見えにくい僕にも、家族と映画を楽しむごくふつうの毎日があるのだと伝わるからか、この話をすると、会場の空気がふっとあたたかくなります。


第3問は、料理

第3問。「中ちゃんは、料理をするでしょうか。しないでしょうか」

ここまで、答えは2問とも〇でした。だから多くの子が考えます。「本も読める、テレビも見られる。じゃあ、料理も工夫すればできるはずだ」。「する」に、大きな拍手が集まります。

ところが、です。

答えは、×。中ちゃんは、料理をしません。

会場が、いちばん大きくどよめきます。種明かしをします。「中ちゃんの家では、料理は妻がしてくれます」

すると、鋭い子が聞いてきます。「目が見えないから、料理ができないの?」

僕は笑って、正直に答えます。「ちがうんです。中ちゃんはね、見える、見えないに関係なく、料理が苦手なんです。見えていた頃から、料理はぜんぜんダメだったんですよ」

ここで、どっと笑いが起きます。……いや、笑うところです。本当にダメなので。

見えない人にも、得意なことと苦手なことがあります。それは、見えるみなさんと同じです。何もできない人でもないし、何でもできるスーパーマンでもない。

「なんだ、中ちゃんも料理が苦手なんだ、うちのお父さんと一緒だ」と、笑いながら感じてもらえたとき、ちょっと遠かった「障害のある人」が、子どもたちの中でぐっと近づくのです。


3問の向こうに、置いていきたいもの

本は、読む。テレビは、見る。料理は、しない。〇、〇、×。

このクイズで体で感じてほしいことは、ひとつだけです。目が見えないことは、「何もできない」ことではなく、「工夫すれば、こんなにできる」ということ。

最初、子どもたちが「目が見えない人は、かわいそう」と思っているのが分かります。悪気はありません。見えない人の暮らしを、見たことがないだけです。

クイズが終わる頃、その顔は「工夫して、ちゃんと暮らしているんだ」という発見の顔に変わっています。

中には、「ぼくにも苦手なことがあるけど、工夫すれば、できるようになるのかな」と、自分のことを考え始める子もいて、僕は、それでいいのだと思っています。

「できるか、できないか」で考えると、止まってしまう。「どうやったら、できるか」で考えると、動き出せる。その考え方をひとつ置いていくのが、僕がいちばんやりたいことです。

呼ぶ側の先生方へ、少しだけ。


あなたの「見えないハンデ」も、工夫に変えられる

あなたにも、人には言いにくいハンデがあるかもしれません。苦手なこと。できないこと。人に頼らないと進めないこと。

それを、隠そうとしていませんか。

もしそうなら、僕の最初のお願いを思い出してください。隠すのではなく、開いて、お願いに変える。「これが苦手なので、ここを手伝ってもらえますか」。それだけで、まわりの人に役目が生まれます。

とはいえ、いきなり大勢の前で弱みを開くのは、ラスボスにいきなり挑むようなものです。

つまり、最初からいちばん難しいところに行かなくていい、ということです。

まずは、信頼できる身近な人に「ここが苦手なんだ」と打ち明けてみる。僕も、最初から大きな会場で話せたわけではありません。目の前の人に頼ることから、少しずつ始めました。開くのも、1ミリからでいいのです。

弱さは、隠すと重荷になるけれど、開くと「手伝うよ」と言ってくれる人を呼んでくれるので、あなたの見えないハンデも、向き合い方ひとつで、まわりとつながる入り口に変わります。

見えなくなっていく世界の中で、支えられながら挑み続ける。その旅を、仲間と一緒に。

今日もどこかの会場で、僕はこう切り出します。「反応を、拍手で教えてくださいね」


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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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💬コメント

最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人