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📅 2026.07.27(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

キャッシュレス決済に助けられた話|視覚障害B2の僕には、お札と小銭の見分けがむずかしい

⏱ 約5分で読めます(3,280字)

レジで、後ろに人が並びはじめる。

それだけで、急に手元があやしくなること、ありませんか。

小銭が出てこない。財布のファスナーが開かない。そういうときに限って、です。

もしあなたが、毎日の支払いで、ちょっとした不便を感じているなら。

もしあなたが、新しい技術を「便利そうだけど、自分には縁がない」と思っているなら。

この記事は、あなたに向けて書いています。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。

僕には、お札と小銭を見分けるのが、むずかしいです。

今日は、そんな僕の支払いを楽にしてくれた、キャッシュレス決済の話をします。

📖 この記事の目次
  1. お札と小銭の見分けが、むずかしい
  2. レジの前が、いちばんこたえた
  3. 「できなくなったこと」に、いちいち落ち込んでいた
  4. キャッシュレス決済が、変えてくれたこと
  5. 「ピッ」という音が、終わりを教えてくれる
  6. 便利さは、思っていなかった誰かも助けている
  7. 道具にも、人にも、頼っていい
  8. あなたの不便にも、きっと工夫がある

お札と小銭の見分けが、むずかしい

僕は、細かい字が見えにくいです。視界は、かすんでいます。

だから、お札の種類を見分けるのが、かんたんではありません。

手元に何枚かお札があっても、どれがいくらなのか、ぱっと見ただけでは分かりにくい。数字を読み取るのに、骨が折れます。

小銭も同じです。

財布の中で何種類もまざっていると、見ただけでは区別がつきません。

もちろん、手ざわりや大きさで、ある程度は分かります。指先で確かめれば、なんとなく。

でも、うす暗い場所だと、むずかしくなります。急いでいるときも。手がかじかんでいるときも。

「これで足りるかな」

「お釣りは合っているかな」

見える人なら一瞬で終わる「お金を数える」という作業に、僕は支払いのたびに、ほんの少しだけ余分な集中を使ってきました。


レジの前が、いちばんこたえた

現金の支払いで、いちばんこたえたのは、レジの前の時間です。

急いでいるとき。後ろに列ができているとき。

早く払わなきゃ、と思うほど、手元のお金が見分けられなくなります。もたつきます。

レジの前は、僕にとって毎日の小さなラスボスでした。

つまり、買い物の中で、いちばん緊張する場面だった、ということです。

この焦りには、覚えがありました。

前の仕事で、図面の細かい字を確認していたときと同じです。「早くしなきゃ」と思うほど、かえって手が止まる。

店員さんも、後ろの人も、ほとんどの方はやさしく待ってくれます。

それでも、「申し訳ないな」「迷惑をかけているかな」という気持ちがわいてきます。

1回1回は、ほんの数秒のことです。

でも、それが毎日、何度も続きます。買い物のたびに、少しだけ身がまえる自分がいる。

見えにくさの大変さは、大きな出来事の中よりも、こういう「小さくて、でも毎日続くこと」の積み重ねの中にあるのだと、僕は思っています。


「できなくなったこと」に、いちいち落ち込んでいた

ふり返ると、見えにくくなりはじめた頃の僕は、小さな「できなくなったこと」のひとつひとつに落ち込んでいました。

レジでもたつく。

書類が読めない。

昨日できたことが、今日できない。

前の仕事でも、図面の確認が1回で終わらなくなりました。2回、3回と見直すようになりました。

くやしくて、情けなくて、誰にも言えませんでした。

お金の見分けも、そのひとつです。

ひとつひとつは人に話すほどでもない小さなことなのに、あの頃の僕にとっては、地味だけれど、たしかに心にこたえる出来事でした。


キャッシュレス決済が、変えてくれたこと

そんな僕の生活を楽にしてくれたのが、キャッシュレス決済でした。

スマホやカードを、かざすだけ。タッチするだけ。

お札を数えなくていい。小銭を見分けなくていい。

お金を「見る」という作業が、まるごとなくなりました。

これは、僕にとって大きな変化でした。

見えにくさの苦労の多くは、「見えないものを、なんとか見ようとする」ところで生まれます。

だから、そもそも見なくていい仕組みは、その苦労を根っこから取りのぞいてくれます。

レジの前で、もたつくことが減りました。後ろの列を気にして焦ることも、減りました。

うれしいおまけも、ありました。

現金だと、払うたびにお釣りの小銭が増えます。財布が重くなります。そして、その小銭をまた見分けて使うことになります。

……小銭が、小銭を呼ぶ仕組みです。

キャッシュレスなら、お釣りそのものが出ません。

財布が軽くなり、頭の中の確認作業も減って、こういう「やらなくて済むこと」がひとつずつ増えていくのが、見えにくい僕には本当にありがたいのです。


「ピッ」という音が、終わりを教えてくれる

キャッシュレスと一緒に僕を助けてくれているのが、音と声です。

支払いが終わると、「ピッ」と鳴ります。

あの音は、僕にとってのセーブ完了の合図です。

つまり、画面を見なくても、ちゃんと支払えたと耳で確認できる、ということです。

スマホの操作も、VoiceOverという音声の読み上げや、Siriの声に助けてもらいながら進めます。

こうして見ると、僕の支払いは、目だけに頼らない形でできあがっています。

お金を見分けるのではなく、かざして、音で確かめる。

見えないぶんを別の感覚と道具でおぎなうというこのやり方は、僕が音や気配を頼りに街を歩くときと、まったく同じ考え方です。


便利さは、思っていなかった誰かも助けている

キャッシュレス決済は、視覚障害者のために作られたものではない、と思います。

でも結果として、僕のような見えにくい人間の生活を、たしかに楽にしてくれています。

キャッシュレスのお店が増えたこと。音で知らせてくれる仕組みがあること。

そういうひとつひとつが、僕が街で暮らしやすくなることに、つながっています。

これは、講演でもよく話すことです。

世の中を便利にする工夫は、作った人が想像していなかった誰かを、ふっと助けることがあります。

だから、何かを作る人、サービスを考える人には、こう思ってもらえたらうれしいです。

「この工夫は、見えにくい人や、お年寄りの役にも立つかもしれない」

みんなが使う仕組みに、ほんの少しの気づかいが足されるだけで、暮らしが楽になる人は、作った人が思うよりもずっとたくさんいます。


道具にも、人にも、頼っていい

見えにくい生活には、まだ不便なことがたくさんあります。お金の見分けは、そのひとつにすぎません。

でも、ひとつずつ、工夫で軽くしていけます。

キャッシュレスで支払う。VoiceOverで文字を聞く。Siriに操作を手伝ってもらう。シュクレと、白杖と、音と気配で街を歩く。

見えにくさの不便は、根性では埋まりません。道具でなら、埋められます。

そして、工夫は道具だけではありません。

「すみません、これはいくらですか」

困ったときに店員さんに聞く。これも、立派な工夫です。

見えにくくなった頃の僕は、人に頼るのが苦手でした。頼るのは情けないことだと、どこかで思っていました。

でも、トライアスロンでガイドと出会い、支えてもらう中で気づきました。

頼ることは、弱さではありません。

道具に頼り、人にも頼り、その両方を組み合わせながら、ひとりで抱えこまずに毎日を回していくことが、今の僕のいちばんの工夫です。


あなたの不便にも、きっと工夫がある

僕が見えにくくなりはじめた頃は、こんなに便利な世の中ではありませんでした。

キャッシュレスも、音声の読み上げも、今ほど身近ではありませんでした。

あの頃の僕に「スマホをかざすだけで支払いが終わる時代が来るよ」と教えたら、きっと驚くと思います。

これを読んでいるあなたにも、毎日の中に、小さな不便があるかもしれません。

見えにくさかもしれない。別の何かかもしれない。

不便があっても、ゲームオーバーではありません。

つまり、今は困っていても、それを軽くしてくれる道具や仕組みに、この先で出会えるかもしれない、ということです。

だから、「これはずっと、このままだ」とは思わないでください。

工夫を探し続けていれば、ある日ふっと、それを軽くしてくれるものに出会えます。僕にとってのキャッシュレスが、そうでした。

今日も僕は、スマホをかざして、ピッという音を聞いて、道具と人に支えられながら、少し身軽になった足で街を歩いています。

あなたの不便も、きっと軽くできます。一緒に、工夫を探していきましょう。


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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
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