新しい靴を買った日。すぐに履いて、出かけたくなりませんか。
僕は、なりました。そして、やらかしました。
「たった5キロだし、だいじょうぶだろう」
その5キロで、かかとの皮がむけました。
新しいシューズを買ったけれど、長い距離で試すのがこわい人。
レースに新品はダメと聞くけれど、いつ慣らせばいいのか分からない人。
この記事は、そんなあなたに向けて書きました。
僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。
IRONMANという226キロのレースを、2024年、2025年、2026年と完走してきました。最後のランは、ガイドといっしょに42.195キロです。
でも、準備がいつも完ぺきだったわけではありません。今日は、その失敗と、そこから作った5つのルールを書きます。
新しいランニングシューズを買ったのは、2026年のかすみがうらマラソンに向けて準備をしていたころです。
お店で試しに履いて、「いい感じだ」と思いました。
次の朝、さっそくそのシューズで走りに出ました。
距離は5キロ。いつもの公園を1周するだけです。
3キロを過ぎたあたりで、右足のかかとに「あれ?」という感じがありました。
次の1歩で、ズキッ。
走り終わって靴下をぬぐと、かかとが真っ赤にはれて、皮がむけていました。
5キロで、靴擦れ。完全に油断していました。
問題は、そのあとです。
治るまで約1週間、まともに走れませんでした。練習の計画がくるいます。あせります。でも、走れば悪くなります。
たった5キロで、僕のHPは1週間ぶん減りました。
つまり、1回の油断で、1週間ぶんの練習ができなくなった、ということです。
「新品は慎重に」と頭では分かっていたのに、「5キロならだいじょうぶ」という何の根拠もない自信に流された自分が、いちばん痛かったです。かかとより。
新しいシューズの最初の3回は、この距離で走ります。
新しいシューズを、いきなりラスボスの前に連れていってはいけません。
つまり、買ってすぐに、長い距離やレースで使わない、ということです。
お店で履いただけでは、どこがこすれるかは分かりません。走ってみて、はじめて分かります。
僕の失敗は、「いきなり5キロ」だったこと。
もし3キロでいったん止めていたら、あの違和感に気づけたはずです。
3キロ、5キロ、8キロと少しずつ距離をのばして、3回とも何も起きなかったシューズだけを、僕は10キロ以上の長い練習やレースに連れていくことにしています。
レース当日に新品を履くのは、やめたほうがいいです。
では、いつまでに慣らせばいいか。僕は「3週間前まで」と決めています。
理由は、2つです。
2026年のかすみがうらマラソンでは、レースの1か月前に新しいシューズを使いはじめました。
3週間で、合計50キロ。
本番では、シューズは何の問題もありませんでした。
……シューズは。
僕のほうは、25キロでリタイアしました。それは、また別の話です。
足に合わせる時間をちゃんと取ったシューズは、僕自身が途中で止まってしまったあの日でも、25キロのあいだ、靴擦れひとつ起こさずに足を守ってくれていました。
見落としやすいのが、雨の日です。
晴れの日はぴったりだったシューズが、ぬれたとたんに足がすべる。こすれる場所が変わる。そういうことがあります。
とくに、靴下がぬれると、靴擦れしやすくなります。
だから僕は、練習で一度、雨の日に5キロ走ることにしています。
雨でも問題がなければ、そのシューズは信じていい。
レースの日の天気は、選べません。
晴れの日だけを見て「これでOK」と決めてしまうと、本番の朝に雨が降っていたとき、はじめての条件にぶっつけで向かうことになってしまいます。
僕がいつも持ち歩いているのが、靴擦れ防止のテープです。
大事なのは、痛くなってから貼るのではなく、先に貼ること。
新しいシューズの最初の3回は、ここに貼っています。
痛くなってから貼るのは、減ったHPの回復です。
つまり、傷ができてから手当てするより、傷ができないように先に守っておくほうがずっと楽だ、ということです。
見えにくい僕は、貼る場所を妻に見てもらうこともあります。
でも基本は、指先です。さわって、「ここがこすれそうだな」と予想して貼ります。
指先でかかとの骨の形をたしかめながらテープを貼る数分間は、地味ですが、そのおかげで、あの5キロの靴擦れのあとは、大きなトラブルは起きていません。
シューズ選びでやりがちなのが、ぴったりのサイズを選ぶことです。
お店ではぴったりでも、長く走ると、足はむくみます。
僕は、ランニングシューズは、ふだんの靴より少し大きめを選びます。
むくんだ足でも、入るように。
「ゆるくて、足が動くのでは?」と思うかもしれません。
それは、ひもの締め方で調整できます。
きつすぎるシューズで爪が内出血したり、靴擦れしたりするほうが、ずっとつらいです。
お店で「ちょっと大きいかな」と感じるくらいのサイズが、42.195キロの終わりごろ、むくんでふくらんだ足にとっては、ちょうどいい大きさになってくれます。
僕は、目が見えにくいです。それは、変えられません。
変えられないことは、工夫でのりこえてきました。
でも、靴擦れはちがいます。
あれは、ただの準備不足でした。
……目のせいにできたら、楽だったんですけど。
新しいシューズを少しずつ慣らすことは、誰にでもできます。
5キロで皮がむけたとき、いちばんくやしかったのは、「防げたはずだ」と気づいたことでした。
レースでこわいのは、予想できないアクシデントだけではありません。
本当にこわいのは、防げたはずの小さな失敗でゲームオーバーになることです。
つまり、前もって少し手をかければ起きなかったことで、本番をだめにしてしまう、ということです。
変えられないことで悩む時間があるなら、そのぶん、自分の手で変えられる小さなことをひとつずつ先にかたづけておきたいと、あのかかとの痛みが教えてくれました。
この5つを守れば、新しいシューズは、あなたの味方になります。
新しい靴を買ったら、すぐ長く走りたくなります。その気持ち、よく分かります。僕がそうでしたから。
でも、そこをぐっとこらえて、最初の1回だけは3キロでやめて、靴下をぬいで、かかとをさわってみてください。
「できるか、できないか」ではなく、「どうやったらできるか」。
転んでも、また立てます。
あなたの新しいシューズが、あなたを次のゴールまで、痛みなく運んでくれますように。
2026年9月13日、IRONMAN JAPANを完走しました(14時間43分54秒・PCクラス2位)。この挑戦は、支えてくれる人たちと一緒に作る物語です。次の挑戦も、日々の練習やレースの様子を発信していくので、そばで見届けてもらえたら嬉しいです。
中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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25メートルも泳げなかった僕が、ガイドとロープでつながって226kmに挑むまでを、YouTubeで1話ずつ動画にしています。
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