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📅 2026.07.07(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

見えなくなってから、趣味が増えた話|視覚障害B2の僕を外へ連れ出してくれた3つのこと

⏱ 約6分で読めます(3,560字)
ガイドとタンデム自転車でレースを走る中澤隆

「趣味は何ですか?」と聞かれて、答えに困ったこと、ありませんか。

もしあなたが、胸を張って言える趣味なんてない、と思っているなら。

もしあなたが、家にいる時間が長くなるほど、気持ちが沈んでいくのを感じているなら。

もしあなたが、外に出る理由が見つからないまま、一日を終えてしまうことがあるなら。

この記事は、あなたのためのものです。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。

少し意外な話をします。僕は、目が見えにくくなってから、趣味が増えました。

今日は、その理由を書きます。

📖 この記事の目次
  1. 見えていたころ、趣味はなかった
  2. 家にいる時間が、いちばんこわかった
  3. 趣味とは、心が外に向く時間
  4. 泳いで、こいで、走ること
  5. 盲導犬シュクレとの散歩
  6. 講演で、人と話すこと
  7. 3つとも、誰かとつながっていた
  8. 外に出る理由を、ひとつだけ

見えていたころ、趣味はなかった

講演に行くと、よく聞かれます。「趣味は何ですか?」

目が見えていたころの僕なら、たぶん困っていました。「これが趣味です」と言えるものを、あまり持っていなかったからです。

今は、いくつか思い浮かびます。

しかも、ぜんぶ、見えにくくなってから始めたものです。

ふつうに考えたら、逆ですよね。見えなくなれば、できることは減りそうです。僕自身が、いちばんおどろいています。

もちろん、できなくなったことは、たくさんあります。

細かい字を読むこと。車を運転すること。知らない街を、ふらっと歩くこと。数えれば、きりがありません。

それでも、趣味は増えました。

手放したものを数えていた僕が、いつのまにか増えたものを数えられるようになったのは、「趣味」という言葉の意味を、見えにくくなってから、まったく別の形でとらえ直したからです。


家にいる時間が、いちばんこわかった

27歳で、緑内障と診断されました。31歳で、視覚障害者になりました。

そのころ、いちばんつらかったのは、家にいる時間でした。

静かな部屋にいると、頭の中が、悪い想像でいっぱいになります。

このまま、もっと見えなくなったらどうしよう。仕事は。生活は。明日は。

不安は、止まってくれません。じっとしていると、どんどん大きくなります。

夜もこわかった。眠って、朝起きたら見えなくなっていたらどうしよう。布団の中で、そればかり考えていました。

家は、安全な場所のはずです。なのに僕にとっては、不安がいちばんよく育つ場所でした。

家にいるだけで、心のHPが、じわじわ減っていきました。

つまり、何もしていないのに、気持ちだけがどんどん疲れていった、ということです。

今ふり返ると、あのころの僕に足りなかったのは、強い心でも明るい性格でもなく、「今日は、これがあるから外に出る」と言える、たったひとつの理由でした。


趣味とは、心が外に向く時間

だから、僕にとっての趣味は、ふつうとは少し違うかもしれません。

うまいかどうか。立派かどうか。人に自慢できるかどうか。そういう物差しでは、はかっていません。

大事にしているのは、ひとつだけです。

それをやっているあいだ、心がちゃんと外を向いているか。

不安は、心が自分の内側ばかり向いているときに、大きくなります。

だから、心を外へ連れ出してくれるものは、ぜんぶ、僕の大事な趣味です。

世の中で立派だと言われるものでなくても、下手なままでも、それをしているあいだだけは明日の心配を忘れていられるのなら、僕にとっては、それがいちばんの趣味になります。


泳いで、こいで、走ること

ひとつめは、トライアスロンです。

31歳で始めたとき、25メートルも泳げませんでした。それが今は、226キロのIRONMANに挑んでいます。

……趣味と呼ぶには、ちょっと長すぎる気もします。

でも、趣味と呼びたい理由は、記録ではありません。

「今日は、練習がある」。

この予定があるだけで、朝の空気が変わるのです。

体を動かしているあいだは、あの止まらなかった不安が、すっと静かになります。

水をかく感じ。ペダルを踏む感じ。地面をける感じ。今に集中していると、まだ来ていない未来を心配しているひまがありません。

続けると、もうひとついいことがありました。

「昨日より、少し長く泳げた」「先週より、楽に走れた」。

できないことが増えるばかりだった毎日の中で、できることが増えていく感じは、本当にひさしぶりでした。

レースでは、スイムとランはロープでガイドとつながり、バイクは二人乗りのタンデムに乗ります。

はじめは、助けてもらう側になるのが情けなくて、くやしかったけれど、続けるうちに、ガイドは一緒にゴールを目指す対等なチームなのだと分かって、趣味が、仲間まで連れてきてくれたのだと気づきました。


盲導犬シュクレとの散歩

ふたつめは、盲導犬シュクレとの散歩です。

シュクレは、僕の2頭目の盲導犬です。名前はフランス語で「砂糖」「甘い」という意味。シュークリームの「シュー」と同じ言葉です。

訓練士さんからは、「ちょっと繊細な子です」と聞いていました。

ところが、はじめて会った日。シュクレは、おなかを見せて、ごろん。へそ天です。

……どこが繊細だよ。心の中で、思わずつっこみました。

その日は、僕にとって特別な日でもありました。1頭目の盲導犬・デネブが、引退する日だったのです。

別れと出会いが、同じ日に重なりました。

盲導犬と暮らそうと思ったきっかけは、駅のホームから落ちそうになったことでした。「もっと安心して、安全に歩きたい」。そう思ったのです。

シュクレと歩く時間が、僕は大好きです。

息を合わせる。街の音を聞く。風を感じる。一歩ごとに、心が外へ開いていきます。

家で考えこんでいる僕と、シュクレと外を歩いている僕は、同じ人間なのに心の向きがまるで違っていて、シュクレは安全を守ってくれる相棒であると同時に、毎日の散歩という趣味をくれた相手でもあります。


講演で、人と話すこと

みっつめは、講演で人と話すことです。

今、年に50回前後、いろいろな場所で話をさせてもらっています。

人前で話すのは、はじめから得意だったわけではありません。

でも、自分の経験を話す。聞いてくれた人が、何かを受け取ってくれる。終わったあとに、質問をしてくれる。あのやりとりが、僕は本当に好きです。

講演のはじめに、いつもお願いをします。

「僕には、みなさんの表情が見えません。だから、うなずきや拍手や声で、反応を教えてください」。

すると、会場とつながっていく感じがします。

見えないからこそ、声や空気を、めいっぱい受け取ろうとします。

終わったあとに「勇気をもらいました」と声をかけてもらえると、本当にうれしいです。

仕事を趣味と言うのは、ずるいかもしれません。でも、好きなものは好きです。

家の中でひとり、悪い想像ばかりしていた僕が、今は年に50回も人と向き合っているのだから、これも見えにくくなってから手に入れた、大事な時間です。


3つとも、誰かとつながっていた

ならべてみて、気づいたことがあります。

僕の趣味は、どれも、僕だけでは成り立ちません。

外に出るだけではなく、かならず誰かとつながっています。

不安は、心が内側を向いているときに大きくなります。そして、ひとりきりのときに、いちばん大きくなります。

見えにくくなったころ、いちばん苦しかったのは、「ひとりで、家の中で、未来を心配していた時間」でした。

今の趣味は、そのちょうど逆です。

僕にとって趣味は、回復の時間です。

つまり、外に出て、誰かとつながって、今に集中することで、気持ちがまた元気になる、ということです。

だから趣味は、僕にとってただの楽しみではなく、心を守るために毎日くり返している、大事な習慣になっています。


外に出る理由を、ひとつだけ

もし今、あなたが家にいる時間が長くて、気持ちが沈みがちなら。

立派な趣味でなくて、大丈夫です。上手でなくて、いいんです。

「これがあると、外に出る理由になるな」。

そう思えるものを、ひとつだけ見つけてみてください。

いきなり大きなことを始めなくていい。家のまわりを、ひと回り歩くだけでもいい。誰かに「おはよう」と言うだけでもいい。

僕も、25メートル泳げないところから始めました。

大事なのは、うまいかどうかではありません。心が外を向く時間が、一日のどこかにあるかどうかです。

1ミリでも外を向けたら、もう前進です。

もし、あのころの僕に会えるなら、「家でじっとしていなくていいよ。下手でいいから、外に出てごらん。そこに、君を待っている人や、犬や、舞台があるよ」と言ってあげたいです。

見えなくなって、失ったものは、たしかにあります。でも、見えなくなったから出会えた趣味が、今の僕を、毎日外へ連れ出してくれています。

見えなくなっていく世界の中で、支えられながら挑み続ける。その旅を、仲間と一緒に。

あなたの「外に出る理由」が、ひとつ見つかりますように。


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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

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最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人