「これ、すごくいいですよ」
そう言われて買ったのに、使ってみたら自分には合わなかった。
そんな買い物、ありませんか。
僕は、ランニングシューズでやりました。
もしあなたが、見えにくさがあって、それでも走っているなら。
もしあなたが、シューズを何で選べばいいのか、迷っているなら。
この記事は、あなたに向けて書いています。
僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。
31歳のとき、緑内障で見えにくくなりました。
右目は、5円玉の穴からのぞいている感じ。左目は、目の前のグー・チョキ・パーが分かるくらいです。
先に、結論を書きます。
シューズは、見た目ではなく、足の裏で選ぶ。
今日は、その選び方の話です。
まず、失敗の話からします。
あるとき、店員さんにすすめられました。
「このシューズ、めちゃくちゃ軽いですよ!」
軽い。速そう。買いました。
……単純です。
結果は、こうです。
走りはじめて10分で、僕のHPは一気に減りました。
つまり、足元がふわふわして、こわくて、走るどころではなくなった、ということです。
軽いシューズが悪いわけではありません。
ただ、足元を目で確かめられない僕にとっては、軽さよりも、着地したときにぐらつかないことのほうがずっと大事なのだと、あの10分で、体で思い知りました。
シューズ選びで、僕がぶつかる壁は、3つあります。
1つめ。見た目で判断できない。
店にならんだシューズを、見くらべることができません。色、形、ロゴ。見える人が何気なく使っている情報が、僕には届きません。
シューズ売り場に立った僕は、いつもレベル1です。
つまり、どれがどんな靴なのか、何も分からないところから選びはじめる、ということです。
だから、店員さんに最初に伝えます。
「このシューズの特徴を、言葉で教えてください」
2つめ。試しばきで、感覚に集中する必要がある。
足の裏の感じ。足首の安定。歩いたときの地面の感じ。目のかわりに、そこに神経を集めます。
3つめ。ネットの情報が、「見える前提」で書かれている。
「軽くてスタイリッシュ」「カラーが豊富」
……色が豊富でも、僕には関係ないのです。
僕が本当に知りたいのは、地面をどう感じるか、クッションはどうか、ぐらつかないか、どれくらい長持ちするかという、はいて走ってみないと分からないことばかりです。
僕がシューズを選ぶときの基準は、5つあります。
まず、いちばん大事な2つです。
基準①:足の裏で、地面が分かるか。
僕は、路面のでこぼこを目で確かめられません。
だから、「今、何を踏んでいるか」を足の裏が教えてくれるシューズが必要です。
僕の場合、底のクッションの部分が25〜30ミリくらいのシューズが、いちばん安心して走れます。
基準②:着地のとき、ぐらつかないか。
疲れてくると、足元はぶれやすくなります。
僕は、目でバランスを取ることができません。だから、シューズそのものに、ある程度の安定が必要です。
試しばきでは、ここを確かめます。
見える人が目で受け取っている路面の情報を、僕は足の裏から受け取るしかないので、地面の感じが分かることと、ぐらつかないことの2つだけは、どんなに良いと言われるシューズでもゆずれません。
残りの3つです。
基準③:重さは、「軽すぎない」が正解。
「軽いシューズは速い」と思われがちです。でも、僕には当てはまりません。
ある程度の重さがあるほうが、着地のときに安定します。足から伝わる情報も増えます。
僕が気持ちよく走れるのは、片足280〜320グラムくらい。これより軽いと、足元が頼りなく感じます。
基準④:長持ちするか。
僕は路面を目で確かめられないので、気づかないうちに、同じ場所ばかりすり減らしていることがあります。
これを確かめて、500キロ以上はけるものを選んでいます。
基準⑤:かかとのフィット。
かかとが浮く。横幅がきつい。つま先が当たる。
こういう小さな違和感が、僕の場合、そのまま転ぶ危険につながります。
数字はあくまで僕の足と走り方に合った目安なので、そのまままねをするというよりも、「自分の足は、どのくらいの厚さと重さだと安心するのか」を探すときの手がかりとして読んでください。
失敗は、もうひとつあります。
「クッション性ばつぐん」
このレビューを信じて、ネットで買いました。
届いたシューズは、たしかにクッションがありました。
ありすぎました。
地面の感じがにぶくて、足の裏に何も伝わってきません。
それ以来、必ず試しばきをしてから買う、と決めています。
うまくいった話も、書いておきます。
あるスポーツ用品店で、正直に伝えました。
「視覚障害があるので、地面の感じと、安定を大事にしたいです」
店員さんは、驚いていました。
でも、僕の足を測ってくれました。走り方を見てくれました。そして、3足にしぼって持ってきてくれました。
そのうちの1足が、今も使っているシューズです。
「見えにくい」と先に伝えただけで、店員さんは僕の目のかわりになってくれて、ひとりで悩んでいたときにはたどり着けなかった1足に、あっさりと出会うことができました。
だから、見えにくい人こそ、店で試しばきをしてほしいです。
僕がやっていることです。
店員さんには、3つのことを伝えます。
試しばきでは、これを確かめます。
試しばきは、買う前のセーブです。
つまり、買ってから「合わなかった」と後悔しないように、先に足で確かめておく、ということです。
店の中を何度も歩き、少し走る動きもして、この全部に足の裏が「大丈夫」と答えてくれたシューズだけを、僕は買うことにしています。
シューズと同じくらい大事なのが、走る場所です。
僕は少し見えるので、公園を走ります。
路面が整っているところ。人が少ない時間。それを選びます。
ガイドと走るときは、ロープでつながります。
僕が右手、ガイドが左手でロープを持って、横にならんで走ります。
雨の日や、見えにくい日は、ジムのトレッドミルを使います。
速さと傾きを決めておけるので、安定した中で走る力をきたえられます。
どんなに良いシューズをはいても、足元が読めない場所ではこわさが先に立ってしまうので、僕は「安心して足を出せる場所」を先に決めてから、その日の練習を始めるようにしています。
最後に、もう一度まとめます。
そして、店で試しばきをして、店員さんに正直に伝えること。
シューズが見えないことは、ゲームオーバーではありません。
つまり、目で選べなくても、足の裏で選べば、自分に合う1足は見つかる、ということです。
僕は、見えにくい目のまま、IRONMANという226キロのレースを、2024年、2025年、2026年と3回完走しました。
「見えないから選べない」のではなく、「見えないからこそ、足の裏が教えてくれる」と信じて、ガイドや店員さんの力を借りながら、僕は今日も走り続けています。
一歩ずつ、前へ。
2026年9月13日、IRONMAN JAPANを完走しました(14時間43分54秒・PCクラス2位)。この挑戦は、支えてくれる人たちと一緒に作る物語です。次の挑戦も、日々の練習やレースの様子を発信していくので、そばで見届けてもらえたら嬉しいです。
中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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25メートルも泳げなかった僕が、ガイドとロープでつながって226kmに挑むまでを、YouTubeで1話ずつ動画にしています。
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