「障害のある人に、どう接していいか分からないんです」。研修の担当の方から、よく聞く言葉です。
もしあなたが、毎年のダイバーシティ研修が「いい話だったね」で終わってしまうと感じているなら。
もしあなたが、制度はととのえたのに、職場の空気が変わらないと悩んでいるなら。
もしあなたが、社員の心に残る講師をさがしているなら。
この記事は、あなたに向けて書きます。
はじめまして。中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。
2017年から講演を続けていて、ここ3〜4年は年に50回前後、学校や企業で話しています。
今日は、「違いがあるから、チームは強くなる」という話を、僕の体験から書きます。きれいごとに聞こえるかもしれません。でも、僕はこれを、体で知っています。
障害のある人の法定雇用率は、段階的に上がっています。障害のある人といっしょに働くことは、もう特別なことではなくなりました。
DEI、健康経営、人的資本経営。言葉は、どんどん広がっています。
それでも、現場からは、こんな声を聞きます。
配慮のしかたを暗記しても、人の心は動きません。
「違いがあるから、チームは強くなる」という実感を、社員のひとりひとりが自分のこととして持てるかどうかが分かれ目で、その実感は、データや正しい理屈よりも、目の前にいる誰かの本当の話から生まれると、僕は思っています。
だから、当事者であり、競技を続けてきた僕の話が、お役に立てるはずです。……自分で言うのは、少し照れますが。
僕は27歳のとき、緑内障と診断されました。
31歳になるころには、右目は5円玉の穴からのぞいているような見え方になりました。左目は、目の前のグー・チョキ・パーがやっと分かるくらいです。
そして、13年つとめた会社は、事実上のクビでした。
あのときの僕は、ゲームオーバーだと思いました。
つまり、もう働いて生きていく道はない、と感じていた、ということです。
だから、職場にいる障害のある社員の不安は、痛いほど分かります。僕自身が、その中にいたからです。
それでも、トライアスロンに出会いました。ガイドの仲間たちと、競技を続けてきました。
25メートルも泳げなかった僕が、アジア選手権で2年続けて1位になり、世界ランキングは最高6位まで行きました。226キロのIRONMANは、2024年、2025年、2026年と、3年続けて完走しています。
今は、サイネオス・ヘルス・ジャパンに所属しながら、アスリートと講演家として活動しています。
「障害のある社員」として働く側の目と、「挑戦を続ける競技者」としての目の両方を、ひとりの人間の体験として話せることが、僕の講演のいちばんの強みです。
目が見えにくいと、初めての場所は、毎回レベル1からのスタートです。
つまり、どこに何があるのか、何も分からないところから始まる、ということです。
でも僕は、気合いで乗りこえてきたわけではありません。前もっての段取りと、まわりへの声かけで進んできました。先の見えないプロジェクトを動かす仕事の現場と、同じだと思います。
見えにくい僕が泳ぐために、ロープでガイドとつながります。バイクは、2人乗りのタンデムです。走るときは、横にならんで走ります。
「できない」を「どうやったらできるか」に変える。この工夫こそ、いろいろな人がいるチームが生み出す力です。同じ人ばかりの組織からは、この工夫は生まれにくいと思います。
僕の競技は、ガイドとの信頼がなければ、1メートルも進めません。
「人のために動くことが、自分の力になる」。これは僕の考え方の真ん中にあるもので、安心して本音を言える職場が成果を生むという今の組織の考え方と、そのまま重なります。
3つとも、本で学んだ話ではなく、見えにくい体で海を泳ぎ、2人で自転車をこぎ、ロープ1本でつながって走るなかで、僕が少しずつ体で覚えてきたことです。
講演のゴールは、「いい話を聞いた」で終わることではありません。次の日からの行動が、少し変わることです。
僕が、聞いてくれた社員の方に持ち帰ってほしいのは、こんな変化です。
大きな変化ではありません。となりの席の人に、ひとこと声をかける。それくらいの、小さな一歩です。
でも、「どう接していいか分からない」と固まっていた人が、次の日の朝にたったひとこと声をかけられるようになることは、分厚い配慮のマニュアルを1冊配ることよりも、職場の空気をずっと大きく動かすと僕は考えています。
同じ話を、僕は学校でもしています。
最近の学校では、授業の前とあとで、「障害のある人へのイメージ」を書いてもらうことがあります。その変化が、いつもはっきり出ます。
授業の前に多いのは、「かわいそう」「大変そう」。授業のあとは、「すごい」「かっこいい」「自分も工夫してみよう」に変わります。
中学生からは、こんな声が届いています。
「以前はしょうがいをかわいそうと思っていたけれど、話を聞いてイメージが変わりました」
「今までは生活が不便で大変だと思っていたけど、それよりも楽しく、笑顔を持っていることがたくさんあると気づいた」
「かわいそう」から「いっしょに何かしたい」へ気持ちが変わることは、企業のダイバーシティ研修が本当に目指しているところと同じで、子どもにも大人にも、同じ変化が起きると僕は感じています。
思いこみという壁は、正しく知ることで、ちゃんと低くなります。
盲導犬のシュクレといっしょに登壇することもできます。
むずかしい理屈をならべるよりも、1頭の盲導犬が僕の足元で静かに待っている姿を見てもらうほうが、「違う者どうしが信頼して組む」ということの意味は、ずっと早く、ずっと深く伝わります。
正直、会場でいちばん人気なのは、僕ではなくシュクレです。もう慣れました。
「まだ日にちも人数も決まっていない」という段階でも、大丈夫です。分かっているところだけで、ご相談ください。
僕がここまで来られたのは、僕の力だけではありません。ガイド、コーチ、家族、所属先、応援してくれる人たち、そしてシュクレに支えられて、少しずつ進んできました。
だから、あなたの会社でも、「違いのある者どうしが支え合うと、チームは前より遠くまで行ける」ということを、僕の失敗も弱さもふくめた本当の話として、まっすぐお届けしたいと思っています。
中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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緑内障の診断からIRONMAN完走までを、16分の動画にまとめました。