大事な本番の朝。頭がまっ白になって、「あれ、何からやるんだっけ」となったことはありませんか。
もしあなたが、大事な挑戦を目の前にしているなら。
もしあなたが、「本番に強くなりたい」と思っているなら。
そして、僕の挑戦を応援してくれているあなたへ。この記事は、あなたに向けて書きました。
僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。
これは、2026年6月28日のレースの2日前に書いた記事です。長野県の諏訪湖で開かれる「スワコエイトピークス ミドルトライアスロン」に、ガイドと一緒に出ます。
まだ結果は書けません。書けるのは、準備と、当日までにやることだけです。レース前の手紙だと思って読んでください。
(あとから書き足します。このレースは完走しました。9月13日のIRONMAN JAPANも、14時間43分54秒で完走しました。)
まず、数字から書きます。
合わせて90kmをこえます。泳いで、こいで、走る。この3つを、止まらずに続けます。
長いです。正直、書いているだけで少し疲れます。
でも、僕とガイドにとって、この数字はただの目安ではありません。設計図です。
どこを、どのくらいの速さで進むか。どこで、何を口に入れるか。関門の時刻から逆に数えて、いつまでにどこを通ればいいか。
「とにかくがんばる」ではなく、数字を読んで、先に段取りを引いておく。距離が長くなるほど行き当たりばったりは通じなくなるので、長いレースほど、この設計図が僕を守ってくれます。
僕がトライアスロンを始めたのは、31歳のときです。
視覚障害者になったばかりで、夜になるのがこわかった頃でした。
テレビで、全盲の女の子がトライアスロンをしていました。僕は、画面の前で動けなくなりました。
「僕より見えない子が、やっている。僕は、まだ見えている。だったら、僕にもできるかもしれない」
それが、最初の一歩です。
とはいえ、始めた頃の僕はレベル1でした。
つまり、25メートルも泳げず、1キロ走っただけで膝が痛くなった、ということです。
そこから1ミリずつ積み上げて、今、ミドルのスタートラインに立とうとしています。
だからこのレースは、僕にとって、ただの1レースではありません。
あの日テレビの前で動けなくなっていた僕が、あれから長い時間をかけてここまで来たという、その話の続きを書きに行く日なのです。
理由は、もうひとつあります。レースは、練習では分からないことを教えてくれます。
知らないコース。その日の風。まわりの選手の流れ。緊張。練習でできたことが、本番でどこまで通じるのか。出てみないと分かりません。
だから僕は、レースを「答え合わせの場」だと思っています。
今週末のレースは、9月のIRONMAN(226km)に向けた、大事な通過点でもあります。
IRONMANは、スイム3.8km、バイク180.2km、ラン42.2km。今週末のミドルの、倍より長い距離です。
その長い1日に向けて、5月から少しずつ練習を積んできました。
今週末のミドルは、9月へ向かう道のセーブポイントです。
つまり、ここまで積んだ練習がレースの距離でも通じるかを、一度たしかめておく場所、ということです。
たしかめたいことは、山ほどあります。
だから、今週末のタイムは「その日の答えのひとつ」です。それより上でも、下でもありません。
本当の目的は、ここで分かったことをぜんぶ9月に持っていって、IRONMANのスタートラインに、今よりも強いチームで立つことで、今週末という点は、そこへ続く線の上にあります。
「見えないのに、どうやってトライアスロンをやるんですか?」。よく聞かれます。
答えは、かんたんです。ガイドと2人で、ひとつのチームになって進みます。
スタートからゴールまで、僕は一度もひとりになりません。
始めたばかりの頃、僕はこれに引け目を感じていました。「助けてもらう側」になるのが、情けなかったのです。
でも、レースを重ねるうちに、はっきり分かりました。
ガイドは僕の目になってくれて、僕はそのガイドを信じて持っている力をぜんぶ出して進むのだから、これは役目が違うだけで上も下もない、どちらが欠けても成り立たないチームなのだと。
だから僕は、今週末のレースを「僕のレース」とは呼びません。僕たちのレースです。
準備も、2人でやります。どこにカーブがあるか。どこが上りか。「右いきます」「段差」「あと少しで上り」。本番で飛んでくる言葉を、先に2人でそろえておきます。
長いレースで、とくに気をつけているのが補給です。
90kmをこえるレースでは、とちゅうでエネルギーが切れると、体が急に動かなくなります。
だから、進みながら、ジェルやドリンクを入れていきます。
「おなかが空いた」と感じたときには、HPはもう、かなり減っています。
つまり、空いてから食べても、のどがかわいてから飲んでも、もう間に合わない、ということです。
だから僕は、補給を時計で決めます。
「30分ごとにジェルをひとつ」「15分ごとにひと口飲む」
体の感覚にたよると、見えにくさと緊張が重なって、判断がぶれます。時計で決めておけば、調子が良くても悪くても、同じリズムで入れられます。
もうひとつ大事なのが、置き場所です。
何を、どのポケットの、どこに入れるか。バイクのどこにボトルをさすか。前の日のうちに決めて、体に覚えさせます。
レースのさいちゅうに「あれ、どこだっけ」と手さぐりで探す時間を1秒もつくらないために前の日から動いているので、僕の補給は、走りだす前に、もう半分終わっています。
ここまで読んで、気づいた方もいると思います。僕のレースは、当日の朝には始まりません。前の日に、もう始まっています。
明日の6月27日(土)は、前日受付です。会場で受付をして、コースをたしかめて、道具をそろえます。
この日のうちに、ガイドと一緒に、「考えること」をぜんぶ終わらせます。
すると、当日の朝に残るのは、ひとつだけ。「動くこと」です。
当日の朝に「さあ、どうしよう」と考えはじめるのが、僕にはいちばんあぶない。見えにくいと、考えることが増えるほど、手が止まって、あせります。
気合いより、段取り。(この考え方は、こちらの記事にくわしく書きました。)
本番に強い人というのは、本番でいちばんがんばる人のことではなくて、本番が来る前に考えることをすっかり終わらせて、当日は決めたとおりに体を動かすだけにしている人のことだと、僕は思っています。
レースを進むのは、ガイドと僕の2人です。
でも、その背中を押してくれているのは、ここまで読んでくれたあなたをふくめた、たくさんの人たちです。きれいごとではなく、毎日の実感です。
結果は、まだ分かりません。でも、ひとつだけ約束します。
終わったら、うまくいったことも、いかなかったことも、正直に報告します。くやしい結果でも、かくしません。
もしよかったら、日曜日、ほんの少しだけ、応援の気持ちを諏訪湖のほうへ向けてください。
SNSでひとこと、心の中でひと声、それだけで十分で、それだけで僕の背中はずいぶん軽くなりますし、支えてくれる人たちの輪の中で、今週末も僕は進んでいけます。
最後に、スタートラインに立つ自分へ。
緊張していると思う。当たり前だ。長いし、知らないコースだし、まわりは強そうな人ばかりだ。
でも、心配いらない。考えることは、前の日までにぜんぶ終わらせてある。
スイムでは、ロープの向こうのガイドを感じればいい。バイクでは、2人で淡々とこげばいい。ランでは、ガイドの声を信じて、となりを1歩ずつ進めばいい。補給は、時計が教えてくれる。
それから、忘れないでほしい。25メートルも泳げなかった31歳の君が、ここまで来た。
タイムがどうであっても、君は今日も、あの日テレビの前で動けなかった自分との約束をちゃんと守っているのだから、比べる相手はとなりの選手ではなく、昨日までの自分だけでいい。
というわけで、諏訪湖で、泳いで、こいで、走ってきます。
あなたの大事な本番にも、「考えることは前日まで。当日は、動くだけ」が、少しでも役に立ちますように。いってきます。
「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。
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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人
2026年9月13日、IRONMAN JAPANを完走しました(14時間43分54秒・PCクラス2位)。この挑戦は、支えてくれる人たちと一緒に作る物語です。次の挑戦も、日々の練習やレースの様子を発信していくので、そばで見届けてもらえたら嬉しいです。
中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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25メートルも泳げなかった僕が、ガイドとロープでつながって226kmに挑むまでを、YouTubeで1話ずつ動画にしています。
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