やることが多すぎて、頭がいっぱいになる夜、ありませんか。
あれもやらなきゃ。これも忘れちゃいけない。
布団に入っても、頭の中だけが残業している。そんな夜です。
もしあなたが、毎日のタスク管理がどうもうまくいかない、と感じているなら。
もしあなたが、スマートフォンの音声機能を、もっと生活に使えないかな、と思っているなら。
この記事は、あなたに向けて書いています。
僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。
僕は、画面の細かい文字が読めません。
それでも、毎日の段取りは回せています。iPhoneとSiriに、声で頼んでいるからです。
特定の商品をすすめたいわけではありません。僕の生活を、そのまま書きます。
スマートフォンの小さな文字を読む。細かい操作をする。
これは、僕にはかんたんではありません。
でも、タスク管理をあきらめてはいません。
iPhoneには、Siriという音声アシスタントが入っています。話しかけるだけで、メモを取ってくれます。リマインダーをセットしてくれます。予定も教えてくれます。
目で確認しなくても、耳と声だけで一日の段取りが組める。これが、僕の生活をずいぶん楽にしてくれました。
ただし、最初からうまくいったわけではありません。
話しかけても、聞き取ってもらえない。思ったとおりに動いてくれない。
何度も「もういいや」と投げ出しそうになりました。機械を相手に、ひとりでムッとしていたわけです。
使いはじめの僕は、レベル1でした。
つまり、道具はあるのに、まだ使い方が分かっていなかった、ということです。
それでも毎日話しかけているうちに、ゆっくり、はっきり、短い言葉で頼めばちゃんと通じるというコツが少しずつ分かってきて、僕とSiriの呼吸は、だんだん合っていきました。
僕が毎日やっていることの中で、いちばん効いているのが、これです。
前の夜に、明日やることを、声でメモに吹き込んでおく。
夜、一日が終わって落ち着いた頃、iPhoneに話しかけます。
「明日やることをメモ」
そして、頭に浮かんだことを、思いつくまま声にします。
練習のこと。講演の準備。連絡しなきゃいけない人。買っておくもの。
書きません。しゃべるだけです。
だから、暗い部屋でもできます。目をつぶっていても、できます。
なぜ「前の夜」なのか。
朝になってから「今日、何をしようか」と考えはじめると、頭がぼんやりして、抜けやもれが出るからです。
考える作業と、実行する作業を、分けておく。
夜の自分が決めて、朝の自分は聞くだけ。
夜の自分が、朝の自分を助けてあげるこのやり方は、見えるか見えないかに関係なく、朝が苦手な人みんなに効く方法だと、僕は思っています。
この習慣には、もうひとつ、いいところがあります。
やることを頭の中に抱えたままだと、「あれも、これも」と、ぐるぐる考え続けてしまいます。
不安になります。眠りも浅くなります。
でも、声に出してiPhoneに預けてしまえば、「もう忘れていい」と思えます。
夜の音声メモは、僕にとってのセーブです。
つまり、今日の頭の中身を外に残して、安心して一日を終わらせる、ということです。
頭の中の心配ごとを外に出して道具に預けるというのは、見えない僕だけの工夫ではなく、忙しい毎日を送っている誰にとっても、心を守るやり方になるはずです。
僕は、自分の記憶力を、あまり信用していません。
目とは、あまり関係ありません。人は忘れる生き物だ、と思っているだけです。
だから、大事なことほど、リマインダーに任せます。
「明日の朝7時に、あの人に連絡」
「水曜日にゴミを出す」
こういう用事は、声でSiriに頼んでおきます。すると、決まった時間にiPhoneが教えてくれます。
自分で覚えておこうと、がんばらなくていい。
練習と、講演と、日々の用事。これが重なると、僕の頭はすぐにいっぱいになります。
全部を自分の頭で覚えておこうとすると、必ずどこかがこぼれ落ちます。
だから、こぼれそうなものは、片っぱしからリマインダーに預けます。
道具に頼るのは、サボりではありません。
覚えておくための力をほかのことに回せるようになると、頭の中に少しだけ余白ができて、本当に集中したいことに、やっと力を注げるようになります。
メールや、ちょっとした文章を作るとき。
僕は、文字を打つより、しゃべってしまうことが多いです。話した言葉が、そのまま文字になります。
小さなキーボードの文字を、見えにくい目で1文字ずつ探して打つ。これは時間がかかります。打ちまちがいも増えます。
しゃべるだけなら、頭で考えたことを、そのまま言葉にできます。速さが、ぜんぜん違います。
もちろん、音声入力は完ぺきではありません。
聞きまちがいもあります。思ったとおりに変換されないこともあります。
それでも、1文字ずつ打つよりは、ずっと速くて楽です。
完ぺきなやり方を探して立ち止まるよりも、今より少し楽になる方法をえらんで先に進むほうが、僕には合っていました。
僕の一日を、少し紹介します。
朝、起きたら、まず声で聞きます。
「今日の予定は?」
今日は練習の日か。講演の日か。誰と会うのか。
耳で受け取って、頭の中に一日の地図を描きます。
前の夜に吹き込んだメモも、声で読み上げてもらいます。
日中、何か思いついたら、その場で声でメモします。
手がふさがっていても、歩いていても、声なら残せます。
そして夜、また明日やることを吹き込みます。
このくり返しです。
朝に声で予定を聞き、昼に声でメモを残し、夜に声で明日の準備をするという流れが毎日つづいていて、僕の一日は、朝から夜まで声でつながっています。
特別な道具は、いりません。むずかしい設定も、いりません。iPhoneに話しかけるだけです。
ここまで書いたことは、どれも特別なことではありません。
前の夜に吹き込む。リマインダーに頼る。打たずにしゃべる。
そして、このやり方は、見えない人だけのものではない、と僕は思っています。
料理をしていて、手がふさがっているとき。
運転中で、画面を見られないとき。
たくさんのことを抱えて、頭がいっぱいのとき。
そんなとき、声で段取りを回せると、生活は楽になります。
障害のある人の工夫は、特別な人のための特別な方法だと思われがちです。でも実際は、多くの人にとって便利なものだったりします。
見えない僕が、必要にせまられて身につけたやり方が、どこかで誰かの毎日を少しでも楽にできたら、こんなにうれしいことはありません。
最後に、あなたに伝えたいことがあります。
全部を、自分の記憶と、見る力だけでこなそうとすると、人は疲れます。
タスクが山になった日も、ゲームオーバーではありません。
つまり、頭がいっぱいになっても、やり方を変えれば、まだ立て直せる、ということです。
立派な仕組みは、いりません。
今夜、ひとつだけ、声に出してみてください。
「明日やること、メモして」
その一言から始められます。
僕は、見えないという事情があったから、早くから声に頼るようになりました。
「見えないからできない」ではなく、「やり方を変えればできる」。
できるか、できないかじゃない。どうやったらできるか。
僕がトライアスロンに出会えたのも、IRONMANという226キロのレースを完走できたのも、この「どうやったらできるか」を、道具と人の力を借りながら、ずっと探し続けてきたからです。
見えなくても、声で段取りは回せます。
あなたに合う工夫も、きっとあります。ひとつずつ、一緒に見つけていきましょう。
「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。
📧 つなひろワールドへお問い合わせ中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人