キーボードは打ちません。画面に向かってしゃべって、読み上げの声で聞き返す。僕はこの往復で、このブログを書いています。
もしあなたが、「もう自分には文章なんて書けない」とあきらめかけているなら。
もしあなたが、新しい道具を前に「自分には難しそう」と尻込みしているなら。
もしあなたが、誰かに伝えたいことがあるのに、その方法が見つからずにいるなら。
この記事は、あなたに向けて書きました。
僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害B2クラスのパラトライアスリートで、盲導犬のシュクレと暮らしています。
今日は、このブログの裏側を正直に書きます。VoiceOver(音声読み上げ)と、AIと、僕。三人四脚の書き方です。
まず、僕の見え方を少しだけ。
僕は全盲ではありません。でも、細かい字がとても見えにくい。
パソコンの画面に並ぶ小さな文字を、目で追って読んだり書いたりするのは、ずいぶん前から難しくなりました。
27歳で緑内障と診断されてから、視力は少しずつ変わっていきました。
前の仕事は、電気工事の現場監督です。図面を見るのが仕事でした。
その図面の細かい線や文字が、見えなくなっていきました。
昨日まで読めていた字が、今日は読めない。本当に悔しかった。
あのとき僕は、「読む」と「書く」は、もうゲームオーバーだと思いました。
つまり、もう二度とできないことだと思った、ということです。
でも今、僕はこうして文章を書いています。
答えはシンプルです。目で書くのをやめて、声と耳で書くことにしました。
見えないものを無理に見ようとするのをやめて、目の代わりに耳と声を使うと決めたら、あきらめかけていた「書く」が、もう一度、僕の手に戻ってきました。
見えなくなったのは、「目で書く方法」だけでした。
最初に紹介したいのが、VoiceOver(ボイスオーバー)です。
画面に出ている文字を、声で読み上げてくれる機能です。iPhoneにもパソコンにも、最初から入っています。
僕は、画面を目で見る代わりに、VoiceOverに読んでもらって「耳で見て」います。
今、カーソルがどこにあるのか。どんな文字が入ったのか。ボタンに何と書いてあるのか。
全部、音で教えてくれます。
ただ、慣れるまでは大変でした。
読み上げのスピードが独特なんです。
最初の僕は、完全にレベル1でした。
つまり、何を言っているのか聞き取るだけで精一杯だった、ということです。
……日本語のはずなのに、です。
でも、毎日少しずつ触っているうちに、耳が慣れてきました。今では、速い読み上げでも内容が分かります。
最初の数日でうまくいかなくても、そこでやめてしまわずに、1ミリずつ耳を慣らしていったことが、今、こうして毎週あなたに記事を届けられていることに、まっすぐつながっています。
VoiceOverも、白杖も、盲導犬も、手にした初日から完璧に使えるわけではありません。「難しそう」と感じるのは当たり前で、その先に「慣れ」があります。
読むほうを助けてくれるのがVoiceOverなら、書くほうを助けてくれるのが音声入力です。
キーボードを打つ代わりに、僕は声で文章を入れていきます。
頭に浮かんだ言葉を、そのまま声に出す。すると、画面に文字になって現れる。
それをVoiceOverが読み返してくれるので、「ちゃんと入ったかな」を耳で確かめられます。
この往復で、文章ができていきます。
面白いのは、声で書くと、文章が少し話し言葉っぽくなることです。
僕のブログが、目の前のあなたに語りかけるような文になっているのは、たぶんこのせいです。
手紙を書く、というより、手紙を「しゃべっている」感じに近い。
もちろん、音声入力にもクセがあります。
固有名詞をうまく聞き取ってくれない。同じ音の、別の漢字になる。
……なかなか、言うことを聞いてくれません。
あやしいと思ったら、VoiceOverで聞き返す。違っていたら、言い直す。そのくり返しです。
最初は面倒でしたが、声に出して、聞き返して、また直すという往復をくり返しているうちに、自分が本当に言いたいことが、だんだんはっきりしてくることに気づきました。
キーボードが打てなくても、声があります。書く方法が変わっただけで、伝えたい気持ちは何も変わりません。
ここは、正直に書いておきます。
このブログは、AIの力も借りて書いています。
声でしゃべった言葉は、そのままだと話があちこちに飛びます。同じことを、何度も言います。
……しゃべっていると、どうしてもそうなるんです。
そこを整理して、読みやすい形にするところを、AIに手伝ってもらっています。
でも、中身は全部、僕のものです。
僕が体験したこと。僕が感じたこと。僕の言葉。AIが作った話は、ひとつもありません。
料理でいえば、食材を選んで、味つけの方向を決めるのは僕。盛りつけを手伝ってもらっている。そんな感じです。
「AIに書かせているなんて」と思う方も、いるかもしれません。
でも、僕はこれを隠したくありません。
僕はふだんから、たくさんの道具に支えられて生きています。
シュクレに導いてもらう。白杖で足元を確かめる。VoiceOverで文字を読む。キャッシュレスで支払いをする。
どれも、見えにくさを補ってくれる相棒で、AIもその仲間のひとつですから、僕にとってAIの力を借りることは、白杖を持つことや、盲導犬と歩くことと、何も変わりません。
道具を使うのは、ずるいことでも、恥ずかしいことでもない。使える道具を、ちゃんと使う。それが工夫です。
講演でいつも話している「ピンチはチャンス、カギは工夫」は、ここでも同じでした。
では、どんな順番で書いているのか。流れをお見せします。
最後の確認で聞いているのは、ひとつだけです。
「これは、僕の言葉になっているかな」
違和感があれば、また声で直します。
目で見て書く人からすると、ずいぶん回り道に見えるかもしれません。
……自分でも、手間が多いなとは思います。
でも、声と耳を何度も行ったり来たりするこのやり方が、今の僕にはいちばん自然で、遠回りに見えるこの道が、僕にとってのいちばんの近道になっています。
この書き方を続けているのは、伝えたいことがあるからです。
視覚障害になって、夜が来るのがこわくて、仕事も失った時期がありました。
そんな僕が、トライアスロンに出会って、支えてくれる人たちの輪の中で、もう一度立ち上がっていきました。
そこで感じたことを、同じように悩んでいる誰かに届けたい。それが、僕が書く理由です。
続けていると、思いがけない出会いもあります。
記事を読んだ誰かが、コメントをくれる。講演に呼んでくれる。
見えにくくなって世界が狭くなったと思っていた僕が、声に出した言葉をきっかけに、むしろたくさんの人とつながれるようになったのは、本当にうれしい誤算でした。
もちろん、楽な日ばかりではありません。
ネタに困る日があります。うまく言葉にならない日もあります。
そんな日は、書く気力のHPが、ほぼ0です。
つまり、一本まるごと書く元気は残っていない、ということです。
だから、完璧を目指しません。まず一段落だけ、声にしてみる。
たった一文でも声にすれば、それが次の一文を連れてきます。
今日伝えたかったのは、ひとつだけです。
方法が見つからないのと、できないのは、違います。
僕は、目で書く方法を失いました。でも、声で書く方法を見つけました。
あなたにも、あなたに合った方法が、きっとあります。
それは道具かもしれないし、誰かの手かもしれません。
声で書くこと。耳で読むこと。道具の力を借りること。
これは、見えにくい人だけのものではありません。字を書くのが苦手な人にも、いろんな事情を抱えた人にも、きっと役に立ちます。
完璧な方法を最初から持っている人はいなくて、みんな、うまくいかない日をはさみながら、自分なりのやり方を少しずつ見つけていくのだと思います。
このブログは、これからも、僕の声と、耳と、道具たちと、つながってくれる人たちの支えで、書き続けていきます。
今日も、声に出して書きました。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。
📧 つなひろワールドへお問い合わせ中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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緑内障の診断からIRONMAN完走までを、16分の動画にまとめました。
RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人