大事なことを、誰かに任せる。それが少しこわい、と思ったことはありませんか。
もしあなたが、「新しい仲間とは、どこで出会うんだろう」と考えたことがあるなら。
もしあなたが、誰かを紹介したり、されたりして、「縁って不思議だな」と感じたことがあるなら。
もしあなたが、新しい相手と組むことになって、「ちゃんと信頼し合えるだろうか」と不安なら。この記事は、あなたに向けて書きました。
僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。
2026年9月13日、僕はIRONMAN JAPANを完走しました。14時間43分54秒。障害のある選手のクラス(PCクラス)で2位でした。
その226kmを、ずっと隣で進んでくれたのが、ガイドの平川さんです。
今日は、平川さんのことを書きます。出会いの場面を、話を盛ってかざるつもりはありません。書きたいのは、人から人へ、信頼がどう渡っていくのか、という話です。
平川さんとは、2018年に出会いました。
僕が自分で探して見つけた人ではありません。仲間の紹介で、つながりました。
誰かが「この人とこの人、きっと合うよ」と橋をかけてくれた。その橋を渡って、僕たちは出会いました。
僕は、この「紹介でつながる」という形を、とても大切にしています。
あいだに立ってくれた仲間は、僕のことを信じてくれている。平川さんのことも、信じている。
つまり、平川さんと僕のあいだには、会う前から、もう誰かの信頼が橋としてかかっていた、ということです。
自分だけの力で出会える人の数は、そんなに多くありません。僕なんて、とくにそうです。
ふり返ってみれば、トライアスロンとの出会いも、ガイドとの出会いも、妻との再会もそうで、僕の人生が大きく動いたときには、いつもその前に誰かとの出会いがあって、ひとつひとつの縁が僕を次の場所へ連れていってくれました。
スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km。合わせて226km。
IRONMANは、僕にとってのラスボスです。
つまり、僕が出るレースの中で、いちばん長くて、いちばんきつい相手、ということです。
そのIRONMANを平川さんと進むのは、2026年が初めてでした。
ガイドは、ただ隣にいる人ではありません。
道のようすを声で伝える。ペースを一緒に考える。安全を一緒に決める。僕の「目」になって、同じゴールを向いてくれる人です。
226kmを誰かに任せるのは、かんたんではありません。相手を信じきれなければ、足がすくみます。
でも、僕たちのあいだには、紹介してくれた仲間の信頼が、先に土台としてありました。ゼロからではなかったのです。
ランの35kmで、僕の時計は電池が切れました。ペースも、残りの距離も、分からなくなりました。
そこから先は平川さんの声だけがたよりで、その声を信じて足を前に出しつづけた先に、あのゴールがありました。
なぜ僕が「紹介」をここまで大切にするのか。もう少し書かせてください。
誰かが誰かを紹介するとき、そこには、その人の信用が乗っています。
「この人なら大丈夫」。そう言って橋をかけるのは、自分の信用を少しあずけてくれている、ということです。
だから、紹介でつながった相手と、いいかげんな付き合い方はできません。
もし僕が平川さんとの関係を雑にあつかったら、紹介してくれた仲間の顔に、泥をぬることになります。
逆に、僕たちがいい関係を作れたら、紹介してくれた仲間の信用も、一緒に上がります。責任重大です。
紹介は、信頼のリレーです。
バトンを受け取ったら、落とさないように大切に握って、いつか自分も誰かと誰かのあいだに橋をかけることで、そのバトンを次の人へ渡していく。僕は、そういう気持ちで縁を受け取るようにしています。
「ガイド」と聞くと、「見えない人を助けてあげる人」を思い浮かべる方が多いと思います。
でも、はっきり書いておきます。ガイドは、僕を一方的に引っぱる人ではありません。平川さんと僕は、同じ立場のチームです。
レースの間、平川さんは、僕に見えない景色を声で届けてくれます。
「この先、下り坂」
「いいペースだよ」
「あと少し」
平川さんの声は、僕にとっての回復です。
つまり、そのひとことを聞くだけで、「もう少し進もう」という力が戻ってくる、ということです。
そのかわり、僕は僕で、全力でペダルを回し、全力で腕をふります。どちらが上でも、下でもありません。
トライアスロンを始めたばかりの頃、僕は「助けてもらう側」になるのが、くやしくてたまりませんでした。
でも、何度もレースを重ねるうちに、助けを借りるのは情けないことではなくて、「この人になら任せられる」と思える相手がいること自体がひとつの強さなのだと、少しずつ分かるようになりました。
平川さんへの感謝を書くとき、忘れたくない人たちがいます。平川さんを紹介してくれた仲間です。
僕が大切にしている考え方に、「後ろ側の人まで理解する」というものがあります。
平川さんが隣にいてくれる。その後ろには、紹介してくれた仲間がいます。平川さんを送り出してくれる、まわりの人たちもいます。
僕の挑戦は、目の前のひとりだけで成り立っているのではありません。その人をとりまく輪ごと、支えられています。
だから僕は、平川さんと進むとき、紹介してくれた仲間のことも、心の中で一緒に連れていきます。心の中は、けっこう混んでいます。
ひとつの出会いの裏には何人もの人の気持ちがあって、そこまで思いをめぐらせることができたとき、ゴールでわいてくる「ありがとう」は、隣にいる相棒だけでなく、その輪のぜんぶへ向かうものになります。
新しい相手と何かを始めるとき、人は不安になります。ちゃんと信頼し合えるだろうか。うまくやっていけるだろうか。
視覚障害者になったばかりの頃の僕は、新しい人と会うのが、こわくてしかたありませんでした。
「見えない自分を、どう思われるだろう」
「迷惑をかけるんじゃないか」
あの頃の僕は、人と会う場面が来るたびに「にげる」を選びたくなっていました。
つまり、出会うこと自体を、できるだけ避けて、いつも下を向いていた、ということです。
でも、トライアスロンを始めて、たくさんのガイドや仲間と出会ううちに、僕は変わっていきました。
出会いは、不安よりもずっと大きなものを連れてくる。それを、何度も経験したからです。
それに、新しい人と組むことは、これまでの人を忘れることではありません。
これまで一緒に進んでくれた人たちの支えは消えずに僕の中に重なっていて、平川さんとの226kmも、その重なりの上に、また1枚、新しく乗ったのだと思っています。
最後に、あなたに伝えたいことがあります。
自分だけの力で出会える人は、多くありません。でも、人を通せば、つながりは広がっていきます。
あなたが今、誰かを大切にしているなら、そのつながりは、いつか別の誰かへ橋をかけてくれます。
あなたにも、これから新しい出会いがあるはずです。誰かの紹介でつながる人。思いがけない縁が運んでくる人。
そのときは、こわがらずに受け取ってください。そして、つないでくれた人にも、「ありがとう」を向けてみてください。
僕は、仲間がかけてくれた橋を渡って平川さんと出会い、その平川さんの声にみちびかれて226kmの先のゴールまで進むことができました。
見えなくなっていく世界の中で、支えられながら挑み続ける。その旅を、仲間と一緒に。
あなたのところにも、いい縁が届きますように。最後まで読んでくれて、ありがとうございます。
2026年9月13日、IRONMAN JAPANを完走しました(14時間43分54秒・PCクラス2位)。この挑戦は、支えてくれる人たちと一緒に作る物語です。次の挑戦も、日々の練習やレースの様子を発信していくので、そばで見届けてもらえたら嬉しいです。
中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。
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「視覚障害B2の生活」「IRONMAN サブ11挑戦」「1ミリの行動」「気合いより1ミリ」をテーマに、講演を続けています。学校・企業・自治体問わず、対応可能です。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。
📧 つなひろワールドへお問い合わせ25メートルも泳げなかった僕が、ガイドとロープでつながって226kmに挑むまでを、YouTubeで1話ずつ動画にしています。
▶ IRONMANシリーズを第1話から見る(YouTube)
RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
盲導犬シュクレと共に、1ミリの行動を続ける人