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📅 2026.08.04(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

視覚障害B2の僕が、初めての場所に迷わず行く方法|出かける前に作る「頭の中の地図」

⏱ 約7分で読めます(3,712字)

初めての場所に行く前の夜。少し、そわそわしませんか。

道に迷わないかな。時間に間に合うかな。出口はどっちだろう。

僕は、毎回そわそわします。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害のB2というクラスで、パラトライアスロンをしています。盲導犬のシュクレと暮らしています。

B2は、目の前のものはぼんやり分かるけれど、看板の文字を読んだり、遠くの目印を見つけたりするのが、とてもむずかしい見え方です。

そして僕は、年に50回ほど、全国の学校や企業へ講演に行きます。

初めての駅、初めての学校、初めてのホテルだらけです。

今日は、そんな僕が、初めての場所にどうやってたどり着いているのかを書きます。気合いの話ではありません。誰でもまねできる、段取りの話です。

📖 この記事の目次
  1. 初めての駅では、情報がほぼゼロ
  2. 準備①:スマホの大きな矢印をたどる
  3. 準備②:「迎えに来てもらえますか」と聞く
  4. 準備③:覚えるのは、3つだけ
  5. 当日:シュクレと、現場でたしかめる
  6. 会場に着いたら、もう1周する
  7. 「初めて」を「2回目」に変えていく
  8. 初めての場所がこわい、あなたへ

初めての駅では、情報がほぼゼロ

目の見える人なら、初めての駅でも、看板を見て出口を探せます。地図を見て方角をつかめます。目印の建物を見つけて、歩いていけます。

僕には、そのどれもがむずかしいです。

看板の文字は、読めません。「出口はこちら」の矢印も、見えません。

目印になるはずの大きな建物も、ぼんやりとしか分かりません。

初めての駅に降りた僕は、毎回レベル1です。

つまり、その場所について、ほとんど何も知らない状態から始まる、ということです。

では、どうするか。

答えは、はっきりしています。出かける前の準備が、ほとんど全部です。

現場で気合いを入れて、なんとかする。それは、僕にはできません。

だから僕は、家を出る前に、道具と言葉と人の力を借りて、頭の中に1枚の地図を先に作っておき、当日はその地図をたしかめながら歩くようにしています。


準備①:スマホの大きな矢印をたどる

いちばん頼りにしているのは、Googleマップの「ライブビュー」です。

スマホのカメラに映った景色の上に、進む方向の矢印を重ねて出してくれる機能です。

使い方は、かんたんです。

こまかい地図の文字は、僕には読めません。

でも、スマホを顔のすぐ近くまで寄せれば、大きな矢印は分かります。

「矢印のほうへ進む」。それだけなら、僕にもできます。

全部を見ようとしなくていい。次の1歩の方向だけ分かればいいのです。

昔は、ちがいました。

「駅を出て、まっすぐ何メートル。2つ目の角を右」と、道順を全部言葉で覚えてから出かけていました。少しでもずれると、もう自分がどこにいるのか分かりません。

盲導犬のシュクレと、このスマホの矢印がそろったことで、僕は初めての場所にも自分の足で行けるようになり、それは少し前の僕には想像もできなかったことでした。


準備②:「迎えに来てもらえますか」と聞く

道具と同じくらい大事な準備が、もうひとつあります。人にたよることです。

講演の主催者の方には、前もって、かならずこう聞きます。

僕の経験では、9割以上の方が、こころよく迎えに来てくださいます。

駅で合流できれば、いちばんむずかしい「初めての道」を、まるごとお任せできます。

以前の僕にとって、人に頼むことはラスボスでした。

つまり、いちばん苦手で、いちばん避けたかったことだ、ということです。

でも、たよるのは、悪いことでも、はずかしいことでもありませんでした。

駅から会場まで、いっしょに10分ほど歩きます。

「今日はありがとうございます」「どんな学校ですか」「生徒たち、楽しみにしていますよ」

そんな話をしているうちに、講演が始まる前から、もうおたがいの気持ちがあたたまっていて、迷いながらやっと着くよりも、ずっといい形で本番を始められるのです。


準備③:覚えるのは、3つだけ

電車の移動で、前もって確認するのは、3つだけです。

  1. 最寄りの駅を、何時に出るか
  2. どの駅で乗りかえて、何分かかるか
  3. 目的地の駅に、何時に着くか

これをiPhoneのメモに書いておきます。そして家を出る前に、音声の読み上げで聞きます。

僕は、画面の文字を読むより、耳で聞くほうが速くてたしかです。だからメモは、目で読むためではなく、耳で聞くために書いています。

本当は、もっとたくさんの情報があります。何番線か。どの車両が乗りかえに近いか。

でも、全部覚えようとすると、頭がパンクします。

だから「出る・乗りかえる・着く」の3つだけ。

北口か南口か。改札はどこか。そういう駅のこまかいつくりは、覚えません。

駅員さんに聞けばいいからです。

改札で「ホームまでお願いします」と伝えると、駅員さんが案内してくれます。

覚えることを3つにしぼって、あとはその場で人に聞くと割りきってしまうのが、見えにくい僕にとって、いちばんすり減らない移動のしかたです。


当日:シュクレと、現場でたしかめる

ここまでが、予習です。

当日は、頭の中の地図を、現場でたしかめながら直していきます。

予習だけでは、実際とのずれがうまりません。予習なしの本番は、こわすぎます。両方を重ねるから、安心して動けます。

ここで、シュクレの力が大きいです。

シュクレは、障害物をよけてくれます。段差や階段の手前で止まって、教えてくれます。

スマホの矢印が「方向」を教えてくれるなら、シュクレは「足もとの安全」を守ってくれます。

僕は、駅員さんや主催者の方やシュクレやスマホの矢印という、たくさんの支えの輪の中を歩かせてもらっているのだと、初めての場所に着くたびに思います。


会場に着いたら、もう1周する

会場に着いたら、講演が始まる前に、かならずもう1周、歩いてたしかめます。

一度、自分の足で歩く。手でさわる。

これは、会場の中でセーブをしておくようなものです。

つまり、どこに何があるかを、本番の前に体に覚えさせておく、ということです。

そうすれば、話している途中でも、迷いません。水を取るときも、体が場所を覚えています。

なぜ、ここまでするのか。

聞いてくれる人に、安心してほしいからです。

話す人がステージの上でウロウロしていたら、聞いている人は、ハラハラします。「この人、だいじょうぶかな」と。

僕が前もって自分の迷いをなくしておけば、聞いてくれる人は僕の目のことを心配せずに、話の中身だけに集中できるので、段取りは自分のためだけでなく、目の前の人のためのものでもあるのです。


「初めて」を「2回目」に変えていく

正直に言うと、どれだけ準備しても、初めての場所では気を張ります。

でも、いいこともあります。

一度しっかり地図を作った場所は、2回目、3回目になると、ぐっと楽になります。

「ああ、ここは知っている」。その感じが、僕には何よりの安心です。

何度も通った大きな駅は、つくりをだいぶ覚えました。よく使う空港も、出発までの流れが体に入っています。

講演先は毎回ちがいます。でも、「駅で合流して、会場へ歩いて、もう1周する」という流れは、いつも同じです。

迷ったことも、たくさんあります。

曲がる角をまちがえて、見当ちがいの方向へ進んだこと。出口をまちがえて、駅の反対側に出たこと。

……準備の話をえらそうに書いておいて、これです。

でも、迷ってもゲームオーバーではありません。

つまり、一度まちがえても、そこで終わりではなく、次に生かせる、ということです。

「あそこはまちがえやすいから、次は駅員さんに念を押して聞こう」。

そうやって「初めて」をひとつずつ「2回目」に変えていくことが、行ける場所を増やし、そのまま僕の自由を増やしていくことになります。


初めての場所がこわい、あなたへ

この「頭の中の地図」は、見えにくい人だけのものではありません。

初めての場所に行くとき、よかったら試してみてください。

  1. 出かける前に、道順を「言葉」で書いておく
  2. 現地では、人にたよる。駅員さん、待ち合わせの相手、通りがかりの人。聞くのは、はずかしいことではありません
  3. 着いたら、もう1周してたしかめる
  4. 2回目のために、大事なところをメモしておく

これだけで、初めての場所のこわさは、ぐっと減ります。

僕は今日も、初めての場所へ向かいます。

シュクレといっしょに。スマホの矢印をたよりに。駅員さんや主催者の方に支えられて。

見えにくくても、僕は行きたい場所に行けます。特別な力があるからではありません。段取りをして、たくさんの人にたよってきたからです。

初めての場所は誰にとっても少しこわいものですが、頭の中に地図をひとつ作るたびに、世界はまた少しやさしくなってくれます。

あなたの次の「初めて」が、無事に「2回目」に変わりますように。


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RYU NAKAZAWA | 視覚障害B2 パラトライアスリート・プロ講演家
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