← 記事一覧に戻る
📅 2026.06.04(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

盲導犬シュクレの素顔|「繊細な子」は、初日からへそ天だった

⏱ 約6分で読めます(3,728字)
盲導犬シュクレと過ごす中澤隆

もしあなたが、街で盲導犬を見かけて「あの子、どんな性格なんだろう」と思ったことがあるなら。

もしあなたが、まじめにがんばりすぎて、休むのが下手なら。

この記事は、あなたのためのものです。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。視覚障害B2クラスのパラトライアスリートで、講演もしています。2022年から、2頭目の盲導犬シュクレと暮らしています。

今日は、そのシュクレの素顔の話です。

仕事中は、どや顔の働き者。でも講演中は、ぐっすり寝ています。

📖 この記事の目次
  1. 別れの日に、出会った
  2. 名前は、フランス語で「砂糖」
  3. ハーネスを着けると、別人になる
  4. 外した瞬間、へそ天になる
  5. 講演中は、ぐっすり寝ている
  6. 終わると、いちばんの人気者
  7. ゆるさの裏にある、信頼
  8. 僕も、休む時間を先に守るようになった

別れの日に、出会った

シュクレと初めて会ったのは、1頭目の盲導犬デネブが引退する日でした。

デネブを「お疲れさま」と送り出した、その同じ日です。場所は、訓練センター。

デネブは、へそ天なんてしない、武士のようにまじめな子でした。正直、その日は悲しい気持ちのほうが大きかった。

対面の前に、訓練士さんからこう聞いていました。

「シュクレは、ちょっと繊細な子です」

緊張しやすいのかな。ゆっくり距離を縮めよう。

僕は、ラスボスに会うくらいの気持ちで身構えていました。

つまり、いちばん気をつかう相手だと思いこんでいた、ということ。

ところが、です。

初対面のシュクレは、部屋の中を駆け回りました。そして僕の前で、ごろん。おなかを上にして、へそ天です。

「……どこが繊細だよ!」

と、僕は心の中でツッコみました。

デネブを見送った悲しさと、シュクレに会えたうれしさが同じ一日に重なった、あの気持ちの振れ幅を、僕は今でもはっきり覚えています。


名前は、フランス語で「砂糖」

「シュクレ」は、フランス語です。意味は「砂糖」「甘い」。

だから僕は、ときどきこう呼びます。「シュークリームちゃん」。

名前のとおり、本当に甘えん坊です。

仕事を離れると、とことん甘えてくる。「なでて」と言わんばかりに、すり寄ってくる。

講演で「相棒のシュクレです」と紹介すると、会場から「かわいい名前ですね」という声が聞こえてきて、まだ僕が何も話していないのに、名前の響きだけで空気がふわっとやわらかくなるのが分かります。

名前ひとつで、その子の性格まで伝わる。誰が付けたのか、センスがいいなと思います。


ハーネスを着けると、別人になる

盲導犬には、ハーネスという胴輪があります。

これを背中に着けると、シュクレにスイッチが入ります。「さあ、仕事だ」。

段差の手前で止まる。曲がり角を教える。障害物をよける。人混みでも、僕を守るように歩く。よそ見もしません。

さっきまで甘えていた子と、同じ犬とは思えません。

ハーネスを着けた瞬間、シュクレのレベルが一気に上がる。

つまり、甘えん坊が、頼れるプロの顔に切り替わる、ということ。

上手にできたときに「えらいね、シュクレ」とほめると、どや顔をしているのが伝わってきます。「えへん、当然です」という顔です。

盲導犬は、言うことを聞くだけの犬ではありません。信頼で結ばれた、対等な相棒です。

朝、ハーネスを着けるとき、シュクレはしっぽを振ります。仕事を終えて外すときも、またしっぽを振ります。

「今日も一緒に行こうね」と「お疲れさま、がんばったね」という、朝と夕方のこの小さなやりとりが、僕とシュクレの毎日を、静かに支えてくれています。


外した瞬間、へそ天になる

では、ハーネスを外すとどうなるか。

だらしないくらい、ゆるみます。

仰向けにひっくり返って、手足を投げ出して、ぐにゃぐにゃ。へそ天です。

僕は目で見ることはできません。でも、触れば分かります。

さっきまで僕を背中で守っていた相棒が、今はただの甘えん坊。その落差が、たまらなく愛おしいんです。

ある日、気づきました。シュクレは、オフにちゃんと休めるから、オンにあれだけ集中できるんだ、と。

へそ天の時間は、シュクレの回復の時間です。

つまり、次にハーネスを着けたとき、また全力で僕を守るための準備、ということ。

休むことも、仕事のうち。一日じゅうハーネスを着けたままだったら、どんなに優秀な盲導犬でも、あのまじめさはきっと続かないでしょう。

もしかしたら「繊細」というのは、気を張る時間とゆるめる時間を、自分で上手に使い分けられる子、という意味だったのかもしれないと、今は思っています。


講演中は、ぐっすり寝ている

講演に、シュクレを連れて行くことがあります。

シュクレが会場に入ると、それだけで空気がやわらかくなります。

僕には、子どもたちの顔は見えません。でも、あちこちから上がる「わあ!」「かわいー!」の声で、みんなが笑顔になっているのが分かります。

目が見えにくい人が来た、どう接したらいいんだろう、という子どもたちの小さな固さを、僕がまだひとことも話さないうちに、シュクレが先にほどいてくれるんです。

ところが、講演が始まると。

シュクレは、僕の足元で丸くなって、すやすや寝はじめます。

僕が熱く話している、その足元で。寝息を立てて。

子どもたちは「あれ?動かないの?」と不思議そうです。そこで僕は言います。

「今、シュクレは寝ているように見えますよね。でも、これもお仕事なんです。静かに、僕のそばで待っていてくれている」

盲導犬は、むやみに動いたり吠えたりせず、落ち着いて待つことも大事な役割です。

すると子どもたちは、寝ているシュクレを、さっきとは少し違う目で見てくれます。静かな姿にも、ちゃんと意味がある。目立つことだけが立派なわけじゃない。

かわいさから入って、大切さを知ってもらう。シュクレと一緒の講演だから、できる伝え方です。

聞きに来てくださった方から「シュクレちゃん、ずっと気持ちよさそうに寝てましたね」と声をかけられることもあります。

「はい、僕の話より、お昼寝のほうが大事みたいで」と返すと、会場があたたかい笑いに包まれます。


終わると、いちばんの人気者

講演が終わると、状況が一変します。

「シュクレに会いたい!」「近くで見たい!」。子どもたちが寄ってきます。

さっきまで寝ていたのが嘘のように、主役はシュクレ。僕の話より人気かもしれません。……ちょっと複雑です。

ここで、子どもたちにお願いをします。

「お仕事中の盲導犬には、急に触らないでね。びっくりすると、お仕事ができなくなっちゃうから」

子どもたちは、ちゃんと我慢してくれます。そして僕が「今はいいよ」と言ったときの、あのうれしそうな声。

我慢することも、相手を思いやることも、シュクレが子どもたちに教えてくれているのだと思います。

それから、シュクレは出かけるときに服を着ています。おしゃれや寒さよけではありません。毛が落ちないようにするための、マナーの装備です。

電車にも、お店にも、病院にも一緒に入れるのは、まわりの人が受け入れてくれているからで、服はその気持ちに応えるための、僕たちからの小さな約束なんです。

シュクレも「これも仕事の一部だね」という顔で、ちゃんと着てくれます。


ゆるさの裏にある、信頼

へそ天で寝て、講演中もぐっすり。ただのマイペースな犬に見えるかもしれません。

でも、犬にとっておなかは急所だそうです。そのおなかを見せて眠るのは、安心しきっている証拠。

シュクレは、出会ったその日から、僕の前でおなかを見せてくれていました。

知らない会場、たくさんの人、マイクから響く僕の声。落ち着かないはずの場所で眠れるのは、「この人のそばなら大丈夫」と、シュクレが僕を信じてくれているからです。

そして僕も、シュクレの仕事ぶりを信じているから、安心して身をあずけて歩けます。

気持ちは、言葉がなくても通い合います。僕が無理をしていれば、きっとシュクレにも伝わる。僕が落ち着いていれば、シュクレも安心してくれる。

ゆるく見える関係ほど、実は深い信頼で結ばれているのだと、足元の寝息を聞くたびに、僕は講演の最中にふと胸が熱くなります。


僕も、休む時間を先に守るようになった

シュクレのオンとオフを毎日見ているうちに、僕も変わりました。

休む時間を、先に決めるようになったんです。

持久系のアスリートにとって、回復こそが力です。体は、練習で刺激を入れて、休んでいるあいだに強くなります。

だから今は、予定を組むとき、まず休む時間をカレンダーに置きます。そのあとで、空いたところに練習や講演を入れる。順番を逆にしない。

休む時間は、カレンダーの中のセーブポイントです。

つまり、どんなに忙しくても、そこで必ず立ち止まって整える場所、ということ。

昔の僕は、「休む=サボり」だと、どこかで思っていました。でも、へそ天のシュクレを見て「サボってるな」と思う人はいないでしょう。

もしあなたが今、気を張りつめて疲れているなら。一日のどこかに、ハーネスを外す時間を作ってみてください。

心の中だけでいいんです。おなかを見せて、力を抜く時間。

それはサボりではなく、明日またあなたが大切な何かに向き合うための、ちゃんとした準備なのだと、僕は相棒から毎日教わっています。

がんばるときは、どや顔でがんばる。休むときは、とことんゆるむ。

シュクレは今日も、ハーネスを着ければまじめに僕を守り、外せばへそ天で甘えてきます。

見えなくなっていく世界の中で、支えられながら挑み続ける。その旅を、仲間と一緒に。

甘い名前の相棒からの、ちょっとした処方箋でした。

動画でも見られます:盲導犬シリーズ

デネブとシュクレと歩いてきた日々を、YouTubeで1話ずつ動画にしています。

▶ 盲導犬シリーズを第1話から見る(YouTube)


💬コメント

🎤 講演のご依頼・お問い合わせ

視覚障害B2のパラトライアスリート・中澤隆が、学校・企業・自治体向けに講演を続けています。盲導犬シュクレも一緒に伺うことができます。

📧 つなひろワールドへお問い合わせ

🌱 おなじ不安の中にいるあなたへ

僕が視覚障害になってから今日までの道のりを、16分の動画にまとめています。文章より、声のほうが届く日もあると思うから。よかったら、そばに置いておいてください。

▶️ 動画「目が見えないのに、226km。」 📖 27歳で緑内障と診断された日|およそ20年後の僕から、過去の自分に届けたい言葉

最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

📷 Instagramをフォロー ▶️ YouTubeを見る

新しい記事が出たら、メールでお知らせします。すぐ下のフォームから登録できます ↓

📣 講演・取材のご依頼

視覚障害B2のパラトライアスリート・中澤隆が、盲導犬シュクレと一緒に学校・企業で講演しています。
テーマ:「挑戦」「障害理解」「盲導犬と歩む人生」「ダイバーシティ」
子どもたちが「シュクレに会えた!」と喜ぶ、温かい講演をお届けします。

講演のご相談はこちら →

シュクレと出会えて、本当によかった。今日もシュクレは、僕の足元で安心して寝ています。明日も、シュクレと一緒に歩きます。

盲導犬についてもっと知りたいこと、シュクレについて気になることがあれば、HPの問い合わせフォーム、または Instagram(@ryu__nakazawa)まで、お気軽にお寄せください。

シェア → X Facebook LINE