← 記事一覧に戻る
📅 2026.05.21(更新 2026.10.10) | RYU NAKAZAWA
🌱 視覚障害

視覚障害があっても旅行できる|盲導犬と泊まる僕のホテル選びと、現地で使える工夫

⏱ 約6分で読めます(3,207字)
盲導犬シュクレと中澤隆

知らない街のホテルで、夜中に目がさめる。

あれ、トイレはどっちだっけ。

暗い部屋で、手さぐりで壁をさわる。そんな経験、ありませんか。

僕にとっては、それが、明るい昼間でも起きます。

僕は中澤隆(なかざわ りゅう)です。27歳で緑内障と診断され、31歳で視覚障害のB2というクラスになりました。

右目は、5円玉の穴からのぞいているような見え方。左目は、目の前のグー・チョキ・パーが分かるくらいです。

それでも僕は、トライアスロンの大会で、20以上の都道府県を回ってきました。

2017年からは講演も続けていて、ここ3〜4年は年に50回ほど。盲導犬のシュクレといっしょに、各地のホテルに泊まっています。

「見えないから、旅行は無理」ではありませんでした。

視覚障害と診断されたばかりの方へ。見えにくいご家族を旅行に連れていきたい方へ。僕がやっている工夫を書きます。

📖 この記事の目次
  1. 最初のこわさは、「断られるかも」
  2. 予約のあとに、電話を1本
  3. 宿は、つくりがシンプルなところを
  4. 部屋は、ふつうの部屋でいい
  5. 朝食バイキングは、最初の1回だけ聞く
  6. 困ったら、人にたよる
  7. 「どうやったら行けるか」を考える

最初のこわさは、「断られるかも」

旅行をあきらめる理由は、だいたい2つです。「移動がこわい」と「宿で迷惑をかけそう」。

僕も、最初のころは、予約の電話をかけるだけで緊張しました。

「盲導犬がいると言ったら、断られるんじゃないか」

「目が見えにくいと言ったら、部屋を用意してもらえないんじゃないか」

実際、盲導犬といっしょだと、飲食店で入店を断られることがあります。

だから、予約の電話は、僕にとってラスボスでした。

つまり、旅行の中で、いちばんこわくて、いちばん気が重い場面だった、ということです。

……まだ家から1歩も出ていないのに、です。

でも、何年も続けて、分かったことがあります。

前もって伝える。具体的に伝える。ていねいに伝える。

この3つをやれば、ほとんどの宿は受け入れてくれるということを、僕は電話を1本かけるたびに、少しずつ知っていきました。


予約のあとに、電話を1本

ネットで予約して終わり、にはしません。予約のあと、電話を1本かけます。

伝えるのは、これだけです。

「視覚障害があり、盲導犬といっしょに泊まります。チェックインのときにお手伝いをお願いすることがあるので、前もってお伝えします」

これだけで、当日、スタッフさんが準備してくれていることが多いです。

フロントで待つ時間も短くなります。部屋までの案内も、スムーズです。

シュクレと泊まるときは、もう2つ聞きます。

盲導犬に慣れていないスタッフさんも、多いです。だから、こちらから具体的に聞きます。

シュクレは、毎日ブラッシングをしています。外では、毛が落ちないように犬用のコートを着せます。雨の日はレインコートです。

「言ったら断られるかも」と黙っておくよりも、「言わずに現地で困る」ほうがずっとつらいというのが、何度も泊まってきた僕の実感です。


宿は、つくりがシンプルなところを

つくりが複雑な宿は、僕には迷路です。

選ぶ目安は、3つです。

リゾートホテルや旅館より、ビジネスホテルのほうが迷いにくいです。

とくにチェーンのビジネスホテルは、どの階も配置がほぼ同じ。一度覚えれば、ほかの階でも使えます。

IRONMANの前の日も、毎年、同じビジネスホテルに泊まっています。

同じホテルは、僕にとってセーブポイントです。

つまり、前に覚えたことを、そのまま次も使える場所だ、ということです。

レースの朝は、3時半に起きます。

頭がまだ半分ねむっているそんな時間でも、つくりを体が覚えているホテルなら、僕は迷わずにロビーまで歩いていくことができます。


部屋は、ふつうの部屋でいい

「視覚障害があるなら、バリアフリーの部屋でないと」と思っていませんか。

僕は、基本的に、ふつうの部屋を選びます。

ユニバーサルルームは、車いすの方に合わせて作られていることが多いです。見えにくい人にとって使いやすいとは、かぎりません。

部屋が広すぎると、かえって、どこに何があるかつかみにくくなります。

大事なのは、部屋の中で迷わないこと。

だから、部屋に入ったら、最初に「歩いてたしかめる」をやります。

ベッドから右に2歩で、トイレ。左に5歩で、お風呂。

手でさわって、歩数でおぼえます。これで、夜中にトイレに行くときも迷いません。

フロントで鍵を受け取るときには、こうお願いします。

「部屋の配置を、口で教えてもらえますか」

「ドアを入って右がトイレ、左がクローゼット、正面がベッドです」

そう言ってもらえるだけで、頭の中に地図ができます。

紙の案内図をもらっても、白い紙に黒い文字は僕には見えないので、スタッフさんが声で伝えてくれるひとことの説明が、僕にはいちばん助かります。


朝食バイキングは、最初の1回だけ聞く

バイキングの朝食は、なかなかの難関です。

どこに何があるか、分かりません。人とぶつかります。トレイを落としそうになります。

朝ごはんを食べに来ただけなのに、HPがどんどん減っていきます。

つまり、食べる前に、もうくたびれてしまう、ということです。

だから、最初の1回だけ、スタッフさんに聞きます。

「料理の配置を、教えてもらえますか」

「入口から右が和食、左が洋食、奥が飲みものです」

一度聞けば、2日目からは自分で動けます。

むずかしければ、朝食を部屋で食べられないか、相談するのもありです。

最近は、「NaviLens」というアプリもあります。専用のコードを読み取ると、音声で案内してくれるしくみです。

僕は、まだ使う機会が少ないです。でも、広がっていけば、旅行がもっと楽になると期待しています。

無理をしてがんばるよりも、聞いたり、道具を使ったり、やり方を変えたりして、少しでも楽なほうを選んでいくことが、旅行を長く続けるコツだと思っています。


困ったら、人にたよる

これが、いちばん大事です。

昔の僕は、「迷惑をかけたくない」と思って、困っていても声をかけられませんでした。

でも、あちこちを回って、分かったことがあります。

人は、たよられると、うれしいものです。

IRONMANの前の日のことです。

僕は、試泳に行くのに、トライスーツをホテルに忘れました。……前の日に、何をやっているんでしょう。

その途中で、コンビニに寄りました。

スタッフさんに「トイレの場所を教えてください」と声をかけました。

すると、「案内しますね」と、レジから出てきて、いっしょに歩いてくれました。

たったそれだけのことですが、知らない街で、初めて会った人が、仕事の手を止めて隣を歩いてくれたあのときのことを、僕は今でも覚えています。

たよることは、弱さではありません。

いっしょに解決する、対等なチームです。


「どうやったら行けるか」を考える

見えなくなったとき、僕は「もう未来がないんじゃないか」と思いました。

でも、トライアスロンを始めて、講演であちこちへ行くようになって、「見えなくても、行ける場所がこんなにある」と知りました。

2024年には、IRONMANを13時間14分17秒で完走しました。2026年も、14時間43分54秒で完走しています。

旅行も、同じです。

「見えないから無理」と決めるのは、始める前に「にげる」を選ぶことでした。

つまり、やってみる前に、自分であきらめていた、ということです。

そうではなく、「どうやったら行けるか」を考える。

「できるか、できないか」ではなく、「どうやったらできるか」。

視覚障害と診断されたばかりで、もうどこにも行けないと思っているあなたにも、手でさわって歩数を数えながら、知らない街のホテルで朝をむかえる日が、きっとまた来ます。


🌱 おなじ不安の中にいるあなたへ

僕が視覚障害になってから今日までの道のりを、16分の動画にまとめています。文章より、声のほうが届く日もあると思うから。よかったら、そばに置いておいてください。

▶️ 動画「目が見えないのに、226km。」 📖 27歳で緑内障と診断された日|およそ20年後の僕から、過去の自分に届けたい言葉

最後まで読んでくれて、ありがとうございます

中澤の挑戦を、これからも見届けてもらえたら嬉しいです。日々の練習やレース、盲導犬シュクレとの暮らしを発信しています。

📷 Instagramをフォロー ▶️ YouTubeを見る

新しい記事が出たら、メールでお知らせします。すぐ下のフォームから登録できます ↓

動画でも見られます:盲導犬シリーズ

デネブとシュクレと歩いてきた日々を、YouTubeで1話ずつ動画にしています。

▶ 盲導犬シリーズを第1話から見る(YouTube)

💬コメント

📣 講演・取材のご依頼

視覚障害B2のパラトライアスリート・中澤隆が、学校・企業向けに講演しています。

テーマ:「挑戦」「障害理解」「ダイバーシティ」「盲導犬と歩む人生」

講演のご相談はこちら →
シェア → X Facebook LINE